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俺は大学の同期のサトシと数年ぶりに再開し、居酒屋で酒を飲んでいると、結婚の話になった。
「あー、結婚してぇな。お前はいいよな。専業主婦の奥さんがいて。家に帰ったらご飯ができてて、妻と子供たちが笑顔で迎えてくれるんだろ? 掃除も洗濯も自分でやらなくていいだろうし」
「はぁ? お前、結婚の事何もわかってねぇな」
俺は大学時代から付き合っていた優子と卒業後一年で授かり婚をして、今では4歳と6歳の二人の子供がいる。
サトシは結婚の大変さを理解していないので、わからせなければならない。
「妄想も大概にしろよ。優子は家事と育児でヘトヘトだから笑顔なんてないし、ご飯は子供の時間に合わせているから冷めてて、子供がたくさん食べる分自分の分は少ないんだぜ? 足りない時は夜中に一人でこっそりカップラーメンを食べてるんだから。それで、食器は全部洗って拭いてしまう。そこまでしないと怒られる。それに子供は帰ってきたら寝てるし、早く帰ってきても仕事で疲れてるから子供が起きてても遊ぶ体力なんで残ってない。それにさ、営業回りで汗びっしょりのスーツが気持ち悪いから、先にシャワーくらい浴びさせてくれって思っても、子供は許してくれないんだよ。すぐに遊んでくれないと泣きわめくから従うしかない」
「じゃあ、休日くらいは楽しいだろう? 優子のSNSに載ってたぞ。家族が仲良くピクニックしている写真」
「言っておくが、子供は出かける前、ニ回に一回はぐずる。子供二人いるから、確率は100%だ。なんとか出かけても、喉乾いた、お腹すいた、おしっこ行きたい。なぜ、いま言うんだってタイミングで言ってくる。弁当は美味かったが、子供たちは遊ぶのに夢中だから、あいつらはあんまり食べない。お弁当を残すの許されないから、結局俺が全部食べることになる。おにぎり腹一杯に食べた後、遊ばされるのがどんな気分かわかるか? 気持ち悪いわ、吐きそうだわでしんどいんだよ。休憩がてらレジャーシートに横になっても、その腹に子供の頭が乗っかってくるし、休めないっつーの。お前にこれが耐えられるのか?」
「わかんねぇよ」
「わからねぇだろ? 俺の気持ちなんて」
「わからねぇのは、お前がなんでそんなに楽しそうに話すかってこと」
「は? 全然楽しくねーよ。地獄。結婚は墓場」
「お前のスマホ見せてみろよ。あー、やっぱり家族写真じゃねぇか」
「これにしないと怒られるの」
ちょうど着信がきた。画面には「みーちゃんハート」と表示されている。家の電話からだけど、娘の名前で登録しろと言われて、登録させられたのだ。
「でなよ。みーちゃんから電話だぞ?」
「あぁ。もしもしー? うん、もうすぐ帰るから。うん、うん、大好きだよ。ほんとに。大好き。先に寝て待っててね」
下の娘は甘えん坊だ。
「娘のことほんと好きなんだな」
「好きだって言わないと寝ないの。おやすみのチューができない時は、好きって言わないと許してもらえないの」
「お前、本当にうぜぇな。うざさのきわみだよ。俺の事はもういいから、さっさと帰れよ、バーカ」
「悪いな。娘の言う事は絶対だから」
きっちり自分の分の代金をテーブルに置いて席を立った。小遣い制だから、きっちり割り勘だ。
「はぁ、結婚してぇな」
「いや、だからさぁ」
結局、俺はあいつに家庭を持つ事の大変さをわからせる事ができなかった。
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