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栖軽が飛鳥で雷を捕まえてから、何年にもなる。
もうあの后も亡くなり、大王は髪の毛が真っ白になった。頬のまだ紅色が残っていたような栖軽は、随身を離れて何年にもなる。今の随身は、栖軽の末っ子である。
やっぱり、頭に真っ赤な鉢巻きをしている。
とうとう、その栖軽の末っ子が泣きながら大王に申し上げることになった。
「我が父、栖軽が亡くなりました」
歳をとって、めっきり涙もろくなっていた大王は、栖軽の屋敷に弔問したのである。
おいおいと泣きながら、思い出した。
「栖軽や栖軽。まだ后が生きていた頃、栖軽は雷を捕まえたことがあったなあ」
ふと思いついて、大王は栖軽の墓を、雷を捕まえた、あの飛鳥の岡に作ることにした。
碑文を立ててこう書いた。
「雷を捕らえた忠臣栖軽の墓」
これを見た雷は怒った。
雨を降らせ、ピカピカと光って、雷鳴を轟かせて落ちて、碑文を蹴っ飛ばし、踏みつけてやろうとした。
碑文を蹴っ飛ばしたところまでは良かった。
大王は今度こそ、一貫の終わりと覚悟して胸を押さえた。
雷は、やっぱり童子であるが、とても恐ろしげで、勇猛で、格好良かった。
しかしながら、碑文を踏みつけたところで、壊れた碑文に足を取られ、柱に挟まって動けなくなった。柱は少し焦げたが、濡れていて燃えない。
大王は胸を撫で下ろし、栖軽の末っ子に命じて、雷を引っ張りだしてやり、天に戻れるようにしてやった。
しかし、七日七夜の間は、放心状態で、ピカピカと地上を彷徨った。
大王は喜んで新しい碑文を立てた。
「死んでもなお雷を捕まえた栖軽の墓」
飛鳥の雷の岡のことだと人は言う。
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