第2話(3) 今日日、今日日って……

1/1

58人が本棚に入れています
本棚に追加
/123ページ

第2話(3) 今日日、今日日って……

 勇次と千景はすぐさま隊服に着替え、作戦室に入る。御剣がそれを確認して頷く。 「よし、全員揃ったな」 「あ、あの……」  愛がおずおずと手を上げる。御剣が尋ねる。 「どうした、愛?」 「えっと……あの……なんと言えば良いのでしょうか……」 「? 何だかはっきりしないわね、愛さん、今は急を要する出動前ですわ」 「万夜の言う通りだ。愛、後でも良いか?」 「え、ええ、大丈夫です、すみません……」  愛が手を下げると、御剣が億葉を見る。 「億葉、説明を頼む」 「はい、それでは皆様モニターにご注目下さい~」  開いた壁にモニターが現れ、地図が映し出される。 「上越市のマンションに多数の妖の反応が見られます。級種は壬級、癸級が多数、中には辛級も何体か混ざっている模様です」 「前回の商店街と同じ部隊構成ですわね。出動はわたくしと億葉、おまけに単細胞の組み合わせで宜しいでしょうか」 「単細胞って誰のことだ、おい!」 「奇遇ですわね。わたくしも他に思い付きませんわ」  いつものように睨み合う千景と万夜の様子に目をやりつつ、御剣が一瞬ではあるが考え込み、指示を出す。 「私と千景、愛と勇次の4人で向かう! 万夜は残って状況に変化が生じた場合の指示を頼む! 億葉と又左は待機だ!」 「ええっ! 脳筋3人で⁉ 愛さんの負担が大きすぎませんこと⁉」 「ちょっと待て、サラッと姐御まで馬鹿にしてんじゃねえよ!」 「ふっ、なんだかこそばゆいな……」  御剣が鼻の頭を擦る。勇次が声を上げる。 「褒められてないですよ!」 「だ、大丈夫です、万夜さん。お気遣い頂きありがとうございます」 「愛さんが宜しいのであれば構いませんが……」 「それでは現場に向かうぞ。転移室に移動だ」 「あ、鬼ヶ島氏、ちょっと待って下さい」 「?」  勇次を億葉が呼び止める。 「これをどうぞ」 「これは……?」 「作っておいた金棒ホルダーです。背中に背負うことが出来ますよ」 「成程……おおっ、これで両腕が使いやすい! 助かるよ、ありがとうな!」 「!」 「どうした?」  億葉はやや顔を赤らめて呟く。 「思ったよりストレートに感謝されたもので少々面食らいました……」 「え?」 「い、いえ、なんでもありません。どうぞ出動を」 「あ、ああ」  勇次が転移室に入ると、御剣が告げる。 「転移先はマンションのエントランスホールが良いだろう。行くぞ!」  御剣に続き、千景と愛が転移鏡に吸い込まれていく。勇次もそれに続く。 「どわっ!」  勇次はまたもや豪快にすっ転ぶ。それを見て千景が笑う。 「ったく、何をやってんだよ」 「み、妙に慣れなくて……」 「崖から崖に飛び移れという訳じゃない。小川をヒョイとひと跨ぎするイメージだ」 「わ、分かりました。今後気を付けます」  御剣は頷くと、指示する。 「さて、もう分かっていると思うが、既に狭世が生じている。先のショッピングモールの様に、建物全体を覆っているようだ。これほどのことが出来るのは恐らく丁級以上の妖の仕業だ。レーダーに反応は無いが、どこかに潜んでいると思われる。注意しろ」  御剣の言葉に3人は頷く。 「では二人一組で動こう。6階から上は私と愛。5階から下は千景と勇次に任せる」 「了解!」 「よし行くぞ、愛」 「はい!」 「気を付けろよ、愛!」 「……話しかけないでもらえますか、破廉恥さん」  そう吐き捨てるように言い残して、愛は御剣に続いて階段を上っていく。 「あ……って何でちょっと離れてるんですか?」  勇次は訝しげに自身と距離を取る千景に尋ねる。 「確かお前らって……幼馴染だとか聞いてたけど?」 「ええ、そうですよ」 「それなのにお前、今日日破廉恥呼ばわりされるなんて……相当だぞ?」 「いや、今日日って……これは誤解というか解釈違いなんですよ」 「何じゃそりゃ、さっぱりわけ分かんねえぞ」 「俺も分かりません……!」  その時、勇次たちの身に着けている妖レーダーが反応を示す。 「! こっちだ!」  千景が走り出し、勇次もすぐ後に続く。角を曲がると、勇次は驚く。 「! あれは……蝙蝠?」  廊下の天井部分に蝙蝠型の妖が何匹か逆さまに止まっていた。勇次たちの接近に気が付くと、間髪を入れず襲い掛かってくる。 「くっ!」  勇次が背中に背負った金棒に手を伸ばす。そんな勇次を千景が叱りつける。 「馬鹿か! そんなもん、こんな狭い所で振り回せねえだろ!」 「ど、どうすれば⁉」 「こうすんだよ!」 「ええっ⁉」  そう言って、前に出た千景は拳を振りかざし、迫りくる蝙蝠を殴りつける。床に思い切り叩き付けられた蝙蝠は砕け散った。 「もう一匹来てる! 左上!」 「!」  勇次の声を聞き、千景はやや体勢を低くして、すぐさま拳を振り上げる。強烈なアッパーカットが決まった形となり、天井に衝突した蝙蝠も無残に四散した。 「す、素手で……いや、俺も前回はそうだったけど、破壊力が段違いだ……」 「素手じゃねえよ、拳痛めちまうだろ」  千景は自分の握り拳を勇次に見せる。その指には金属製の武器がはめられている。 「そ、それは⁉」 「これか? メリケンサックだ」  千景はニヤリと笑う。 「剣とかは使わないんですか⁉」 「得物を振り回すのはどうも性に合わねえ……やっぱ女なら体一つで勝負だろ‼」  千景はそう言って、両手を腰にやり、仁王立ちで胸を張る。勇次の目は思わずその立派な胸に釘付けになってしまう。その目線に気付き、千景は冷ややかに呟く。 「……どこ見てんだよ、破廉恥野郎」 「い、いや! で、でも両手だけじゃ……」 「心配……すんな!」  千景が回し蹴りを放ち、後方から迫っていた蝙蝠を壁にめり込ませる。 「つま先だけじゃなく、踵にも鉄板を入れた特注の安全靴だ。妖退治は足元からだぜ?」 「き、今日日、安全靴って……」 ※2021年7/1から7/7まででこの話を読んでくださっている方々へ  7/8、主人公の一人の姓の読みを「かみすぎやま」から「うえすぎやま」に変更させて頂きました。話の大筋には影響ありませんが、一応ご報告させて頂きます。今後は気を付けますので引き続き宜しくお願いします。
/123ページ

最初のコメントを投稿しよう!

58人が本棚に入れています
本棚に追加