保証された結婚

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 自然妊娠より計画的に妊娠・出産できる人工授精が当たり前になった今、性行為は必要ない方向に話が進むのかと思いきや、愛を確かめ合う尊い行為、その結果できた子供は奇跡の象徴としてイメージが変わった。だからこそ彼はしたいんだと思う。  わかっているけど、どうしてもその気になれない。  昨夜、私の目の前10センチの距離に「拒否」の警告が出た時は、むしろホッとした。意思表示ウィンドウを無視して暴力行為に及ぼうとすれば、家事ロボが駆けつけ、加害者に微弱な電気を流すか、必要なら麻酔銃を撃つことになっている。去年アップデートされ、ますます安心な生活を保証してくれている。  健吾は大人しく引き下がった。「まだ心の準備ができていないかな」なんて言いながら。  18歳の誕生日。彼は結婚を申し込みに来た。私はワクワクしながら結果待ちしていた適正職業診断結果に「10年は就業の必要なし」としか書かれていないことにひどく落ち込んでいて、彼が白馬に乗った王子様のように思えた。両親も諸手を上げて喜んだ。  両親は「Na:Code(ナコード)制度」導入後、遊び半分で検査したところ奇跡的にお互いが運命の相手だった。それ以来、制度に絶対的信用を置いている。従兄弟も、友達の兄や姉たちもそれで結婚して幸せになっている。  でも、私は。  膝の上に置いた両手をギュッと握る。 他のことなら親にも頼れるけど、こればかりはそうはいかない。娘の幸せを信じて送り出してくれたんだから。しかも性行為のことを相談するなんて恥ずかしい。友達はまだ独身ばかりだし。   結婚式は仕事が忙しい彼が落ち着いてから、ということでまだ相手の両親にも会っていない。  相談できる人が誰もいない。  帰宅後も、私はため息ばかりついていた。
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