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豹変
「いやっ……いやぁあああ!」
無我夢中で抵抗する。覆い被さる健吾。結婚して1週間目の夜。
バーに行ってから、私は「体調が優れない」ことを理由に彼を避けるように生活していた。今朝はついに健吾さんより遅く起きた。もうメッセージも残されていない、すれ違いの生活。
ひどい妻だと思うけど、彼の仕事が忙しく連日深夜に帰ってくるのにホッとしていた。ニュースでやっていた、ウィンドウを無効化するプログラムを仕込んだ指輪、というのが出回っていて対応に追われているらしい。
一度、昼間に警官ロボを連れたスーツ姿の男性がうちにきた。「政府の者です」と名乗った彼は、最近健吾の仕事の効率が悪い、と健吾の家事ロボのデータをコピーして帰っていった。
あんなに遅くまで仕事をして、集中してると思ったのに、効率が落ちてる?
私が彼を拒んだから?
「私が悪いのかぁ……」
落ち込む日々が続いた。また「黒猫のタンゴ」に行こうかなと思ったけど、「最近夜は物騒だから。例の指輪のせいで犯罪者が急激に増えてる」と健吾がいない間、家はロックされた。出ることができない。
そして、今。血走った目の健吾が、私を睨んでいる。
でも、ほら。
すぐに「拒否」のウィンドウが出るから大丈夫……。
彼の目がすぅ……と細くなり、唇ににやりとした笑みが浮かんだ。獲物を見つけた肉食獣のような、残忍な笑み。
心臓が止まりそうな寒気。
彼が私のウィンドウに伸ばす左手に、初めて見る指輪があった。ニュースで見た指輪だった。
指輪が触れると、ウィンドウは不快な機械音とともに消えた。
うそ。うそだ。
絶望の中、ドアをノックする音がした。
「悲鳴ガキコエマシタ。ドウサレマシタカ」
家事ロボだ!
「助けて!」
賢吾の腕をつかんで体を起こし、叫ぶ。
その途端、衝撃とともに壁に頭をぶつけた。
殴られたのだ、とわかったときには賢吾はドアの外にいた家事ロボを、どういう手を使ったのか静かにさせていた。頬が痛い。
また彼が迫ってくる。吹っ切れたような顔。目が据すわっている。
「嫌がる事はないんだ、運命の相手なんだから。そうだろ?」
運命の相手。一時期憧れていた言葉が呪いのようだ。
再びあげようとした声は大きな手で塞がれた。
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