救済

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救済

 健吾が私の服に手をかけたその時、轟音と衝撃が響いた。手に何かがこつん、と当たる。見ると木片で、本体のドアが真ん中から真っ二つになり床に倒れていた。 ――え?  「警察だ!彼女から離れろ!」  部屋の入口に、銃を構える青年の姿。健吾が私から離れチッと舌打ちする。億劫(おっくう)そうにホールドアップした。  「こちらへ」  青年が薄く目を開けて手招きする。私は慌てて青年の元に走り、服を直した。  そして気づく。  「黒猫のタンゴ」のバーカウンターに座っていた人だ!あの時とずいぶん様子が違う。全身から張り詰めた緊張感が漂っていた。  「下級役人の警官がなぜここに」  健吾が苛立ちながら言う。  「家事ロボの微かな信号を感知したんだ。――君のところのロボは優秀だな」  最後の言葉はウィンクとともに私に向けられた。廊下を見ると私の相棒が倒れ、中の部品をむき出しにしている。健吾のしわざだろう。  「ごめんね、私のせいで……」  思わず駆け寄り、抱きしめる。  そのせいで、青年の注意が一瞬逸れた。  「形勢逆転だな!さて、銃を床に捨ててもらおうか」  振り向くと、健吾が青年の首にナイフをつきつけていた。  「くっ……」  青年が銃を捨てる。  「さあ、ベッドに戻れ。こいつを始末したらゆっくり味わってやるからな」  にやにやと笑う健吾。普段と違う口調。ほんの3日前に迎えに来た白馬の王子の仮面が剥がれたように下卑(げび)た笑いを浮かべている。  「ひどい……なんで、こんなことするの?運命の相手なのに」  「は?まだ騙されてるなんて相当なバカだな、お前は」    どういうこと?  「運命の相手だなんて嘘だ。お前を襲うために情報を改竄(かいざん)したのさ。箱入り娘で疎いんだろうがMOTHER(マザー)システムの裏をかく犯罪なんてゴロゴロしてる」  ハッ、と青年が鼻で笑った。  「政府の高官が聞いて呆れる。中身は腐ってるな」  「黙れ」  ナイフが青年の首に食い込む。すうっ、と赤い血が流れる。私は慌ててベッドに戻った。  「いい子だ」  「その人には手出ししないで!」  私は叫んだ。  その時。  「そう、その方が身のためよ」  艶やかな女性の声が響いた。  「――誰だ!?」  健吾はあたりを見回した。その足が、悲鳴と共にガクッと床につく。隙をついて青年がナイフを奪って離れ、床に転がっていた銃を再び構える。  健吾の太ももにナイフが深々と突き刺さっていた。窓から部屋に入ってきたのは、あの夜青年の隣にいた、美女だった。  「さて、おとなしくしてもらおうか」  青年が言う。  健吾は悔しそうに顔を歪めて――今度こそ観念して、両手を挙げた。  
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