13人が本棚に入れています
本棚に追加
運命の相手、のはずなのに。
あの人は運命の相手。そう決まってるんだから。私は幸せになれるはず。
なのに……なんで違和感があるんだろう。
「おはよう」
1階に下りると、真っ白な広いリビングで、真っ白なシャツを着た彼が微笑んだ。
ハウスワークロボット、通称「家事ロボ」が出した朝食を食べている。
ご飯と味噌汁はいいとして、生姜焼きに目玉焼き、ウインナーまで添えている。野菜が足りないようだがコップ横のサプリメントで補うらしい。
朝からよくそんなものを食べられるな、と思う。
でも昨夜のことを思うと、脂っぽい食事は彼に合っている気がした。
満たされない性欲を食欲で埋めているのかもしれない。
「おはようございます、あの……昨日はごめんなさい」
運命の相手を悲しませるなんて。チクリと心が痛む。
彼――西村賢吾は口元をナプキンで拭うと立ち上がった。
すらりとした長身、端正な顔立ち。にっこり微笑む姿は若手俳優のよう。政府の高官で、実家も富豪の彼は、「運命の相手」としては誰もがうらやむ存在だ。
ほんの3日前、結婚したときもそう思っていた。
今は彼が近づくだけで動悸がする。――悪い意味で。
「無理やりしたくはないんだ。早めに心の準備をしてくれたら嬉しいな……君を愛するがゆえのことだと、わかってほしい」
私の肩にぽん、と手を置いて彼は青いラインが入った家事ロボから荷物を受け取り、玄関に向かう。気が重いけど私も見送りのためについて行った。
「行ってきます」
「……行ってらっしゃい」
テーブルにつくと、家事ロボが朝食を用意してくれた。私が生まれた時から付き合いがある赤い家事ロボは、体温、血圧、表情から読み取って、温かい紅茶とサンドイッチをベストなタイミングで出してくれた。
「ありがとう」
「ドウイタシマシテ」
用意されたのはあくまでもプログラム通りの返事。優しい、と感じられる言葉も、こうあるべきと仕込まれているからに過ぎない。それでも今の私にとっては優しい声色の賢吾さんより、家事ロボの無機質な声の方があたたかく感じられた。
テレビ観たいな、と視線をやると電源がつく。でも音が出ない。青い家事ロボを見ると、カチッと音がして話し始めた。
「8時ニナリマシタ。旦那様カラノ伝言ヲ再生シマス」
続いて流れる賢吾さんの声。
「予約を入れておいたから、病院で検査を受けておいで。運命の相手を拒むなんて、ウィンドウの故障かもしれない」
わざわざ時間設定までしてこんなメッセージ。泣きたくなる。再び音量を上げたテレビも頭に入ってこなかった。
最初のコメントを投稿しよう!