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「そんな事——」 と銀太の話を聞いて、士鶴は鼻で笑ったが目は笑って居なかった。 「八木みたいな奴もいる。頭のおかしい奴のやる事は、俺達の予想を簡単に超える」 銀太は真剣だった。 「——分かったわ。取り合えず、そうだとしてどうするんや? 警察は当然不法侵入位でしか動かんで? それも、物件の所有者が被害届を出せばや。しかも、最初のアパートとT湖以外は許可さえ取ってる可能性があるで」 「まず、確かめよう。俺の考えが合っているのかを」 「確かめようは有るんか?」 「ある。これだよ?」 銀太はスマホの画面を向けて見せた。 「それは——」 そこには、八木が削除した美少女被害者のランキングをスクショした物が合った。 「霊達が、どの時点で悪霊化したのか分からないし、彼奴らがどの日に撮影許可を取ったか分からないが、きっとこの被害者ランキングの都内の被害者を下から順に彼奴らは回ってるんだ。だとするなら、奴らの裏をかく事は可能だ」 それから、銀太達は真偽を確かめる準備を始めた。 まず、衣瑠華のツイッターを調べDMを送った。 話をもう一度合って聞きたいから、会える日を教えてくれと。 直ぐに返事が来た。 銀太はそれに対して、今月の自分の予定と合わないから、後日の来月の予定が出たらまた連絡すると返事した。 それからスマホを開き、八木のランキングをもう一度士鶴と見た。 「後、都内で残ってるのは、この1位の子だけやな?」 「ああ。きっと、此処だ。そして、またあいつらが行動を起こすのは、返信された日にちのどれかだ? あいつらは今分刻みのスケジュールで動いてるような状態だ。俺に会える日はつまり、衣瑠華のオフの日。基本4人揃っての収録だから、他かの奴らのオフの日でもある可能性が高い。スタッフと出演者に分かれてるようだから、編集の為に休日が割れるなんて事も無い筈だ。皆んな揃ってる可能性は高い」 ——全ての段取りが整った時には、夜半になっていた。 士鶴は今回も銀太の事務所に泊まる事になった。 銀太はソファーの上で上半身を起こしたまま、中々横になれずにいた。 考えていた。 寝たら、俺はまたうなされるのか……。と。 そんな銀太に、士鶴が語り掛ける。 「なんやねん? うなされるのか怖いのんか? 難儀やのぉ。お前どうして戦場なんか見に行ったんや?」 「怖かねえよ。ただ……。」 銀太はローテーブルの上に置かれたニコマートを取る。 「このニコマートは、戦場カメラマンだった俺達の大叔父さんの形見だ。このボディの右側にある真鍮板のパッチ——。大叔父さんはベトナム戦争で、反政府ゲリラに撃たれた。拳銃の弾は至近距離から、心臓目掛けて発射されたが、胸の側にニコマートを構えていたから、大怪我はしたものの致命傷は免れた。大叔父さんはその後、米軍に保護され何とか日本に帰って来れた。まあ結局もう一度戦場に大叔父さんは行って、そのまま行方不明になっちなったけどな。大叔母さんはその後、大叔父さんのボロボロのニコマートを修理屋に無理言って直させた。だが機能的には直っている筈なのに、ニコマートは動かなかった。俺の左目と同じだ。俺が大怪我をして日本に帰って来た時、大叔母さんが見舞いにやって来て、大叔父さんの話をしてから俺にくれた。大叔父さんがこれからの俺を守ってくれるだろうと——。俺が戦場に言った訳か——。大叔父さんみたいな戦場カメラマンになりたいと思った時、戦争はいけないと長年この国で聞かされ続けて来たのに、俺は本当の戦場を知らないと思った。だから、戦場カメラマンになるなら、本当の戦場を知っていないといけない気がした。まあ結局、本当の戦場に行く前に自爆テロに巻き込まれちまったけど。色々やった事に対して社会の批判があったりして、戦場カメラマンへの道は断たれたが、世間の声より左目が見えない事が問題だった。右目でファインダーを覗くが、左目では周りを警戒していなくてはいけない。ミラーが上がった時に完全に視界はブラックアウトする。戦場カメラマンになるには、片目は致命的だった」 「戦場までは行けなかったやろうが、戦場の空気は感じれたやろう? どやったんや?」 「分かんねー。ただ、力無き人が不条理に死ぬだけだ。やっぱ、戦争は行けねえって思っただけ。何も得られなかった。ただ色々な物を失うのと交換に、反戦を実感しただけだ」 「そか。ええやんけ、頭で分かってる事と、体験から得た事じゃ、全然別や」 「でも、もう活かせる所がねーよ」 「あるやんけ。生きて帰って来たんやから、お前の残りの人生で活かせや?」 「……。」 銀太は、士鶴を見た。士鶴は隣のソファーに寝転び、自分の両腕を頭の後ろに回して、枕代わりにしている。 「なんや?」 「お前なんかに、そんな事言われるようになっちゃおしまいだな? ——もう寝よ」 銀太はそう言うと、士鶴に背を向けて横になった。 「なんやねん。可愛く無いのぉ。ありがとうやろう? 全く、最近の若いもんは——」
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