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「なんや? チンケな不動産屋やのう?」
RZから降りて士鶴が言う。
大通り沿いには在るものの、ビルとビルに挟めまれた2階建ての、民家を改造した様な不動産屋は確かにチンケであった。
「チンケで悪かってね? 君何? まさかお客さん」
「あ?」
士鶴が振り返ると小さな小太りの中高年の男が立っていた。
「ああどうも社長。すいません。そいつ、ちょっとあれなんで」
銀太もRZのスタンドを立てて下りて来る。
「あれって、なんやっ!?」
「ああ、波久礼さん昨日はありがとうござます! 記事の件は全然問題ないです。書いてください。今井が今日電話で連絡する事になってたんですけど。一応謝礼は貰ってください。」
「ああ、ありがとございます! 謝礼は良いです。それより、今日は訊きたい事があって——」
「訊きたい事ですか?」
「ええ、片野さんが出た後何かあの部屋にしました?」
「業者が一応入りましたが、綺麗に使って頂いていたので補修なんかは無かったと思います。基本清掃のみです」
「他に何か変わった事は?」
「特には——」
「霊障が始まったのは?」
「北山さんが初めてです」
「じゃあ、先週?」
「そうですね。転落したのは先週の水、いや木曜日か?」
「じゃあ、5日前か? なんか、思い出したりとかありましたら、宜しくお願いします」
「中でお茶でも?」
「いや、これから色々調べる事があるんで。また今度に——」
そう言って社長と挨拶して別れて、出発しようとした時に
「ああ、波久礼さん!」
と外回りの営業から帰って来た今井が声を掛けた。
「昨日はどうも。今、社長さんと話してたとこです」
「いや、こちらこそ。今から電話しようと思ってたのですが、昨日の記事の件なんですが——」
「社長に聞きました。OKだって」
「ああ良かったです。今日は、早速取材ですか?」
「はい。今社長さんに少し話を伺いました」
「……あの?」
「なんですか?」
「あの事件は、本当に悪霊の仕業だったんですかね?」
「なんでそう思うんですか?」
「えっ、いやっ!? 今まではそんな事無かったもので。前の時も、(霊が)居ても安全と波久礼さんが言ってくれたし」
「そうです。前は確実に安全な霊でした。ただ、霊も人間と同じで、常に一定でいる訳ではないみたいです」
「そうなんですね。でも、もう平気なんですよね?」
「ええ。ただ——」
「ただ?」
「俺は今、なんであの霊が悪霊になったかを調べてます。多分なんか原因があった筈なんです」
「原因?」
「はい。もし、何か気付いた事とか思い出した事があったら、教えて下さい」
「……分かりました」
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