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——この事件は、始まりに過ぎなかった。
不動産屋から事務所に帰って来てスマホを見ると、知り合いのオカルトライターからLINEが入っていた。
今まで無害だった霊が悪霊化していると言うのだ。
それは1体や2体ではなかった。複数いる。
それらの取材に行き、その中の1体に襲われて銀太に助けを求めて来た。
「なんか色々起っとるのぉ?」
「みたいだな。こんなに一時に無害な霊が偶然悪霊化なんて、普通は無いだろう?」
「なんか他に、デカイ怨霊でも目ぇ覚ましとるんやないやろな? 勘弁やで」
「そいつに引っ張られてる訳か?」
「まあ、そうなるのぉ」
「とにかく、これから今連絡くれた人の所に行くぞ?」
「調べもんはええんか? その為に、帰って来たんやろ?」
「いや、何を調べるか事務所でゆっくり考えようと思ってただけだ」
「なんやねん。それ?」
2人は中野にあるライターの家に向かった。
道が混んで無ければ30分もあれば余裕で着くだろう。
道は混んではいなかった。ちょっとコンビニに寄ったが、予想通り30分くらいで着いた。
中野駅から徒歩20分程の2階建て賃貸アパート。ライターの藤田の住む1階の部屋をノックする。
「ああ、銀太悪い」
と出て来た藤田は右腕を、骨折した時にするような首から下げるサポーターに突っ込んで出て来た。腕にも包帯を巻いているようだが、ギブスはしていない。
藤田は知り合いの先輩ライターで、Raでもう5年以上記事を書いている。銀太にも、色々とライターとしてのアドバイスをしてくれる。
藤田は銀太達を室内へ向かい入れた。
「まぁ適当に座ってくれ」
「……ああ、はい。相変わらずですね?」
銀太は室内を見て苦笑する。
1DKの室内はオカルト系の書籍や資料に溢れていて、足の踏み場もない。
銀太は適当にそれらを退かして、床に座る場所を作る。
「腕どうしたんですか?」
「切られた」
「悪霊にですか!?」
「ああ。12針も縫ったから、コレ(サポーター)さ。動くと縫ったとこが開いちまうからな。固定してんだよ。今も痛み止め飲んでるけど、それでもクソ痛えよ」
「大変ですね。これ——。途中のコンビニで買いました」
銀太はコンビニ袋を差し出す。
藤田は袋を受け取り中を見ると言った。
「え? 何でメロンパン?」
「お見舞いには——」
「メロンだろ普通?」
「買えませんよ。俺の収入くらい想像がつくでしょ? 同業者なんだから」
「安いの売ってるよ。スーパーに」
「半分のですよね? 汁出るんで。バイク移動だから。それに、そんなにメロン食べたくないでしょ?」
「まあな。むしろメロンパンの方が好き。つか、襲われたって言ったけど、俺怪我の話したか?」
「してません。本当は俺のおやつです。小腹が空いたんで食べようと思って、途中で買って来ました」
「ああ、そうか」
そう言って藤田はメロンパンを開けてガブリ! と喰らい付いた。
「あっ!?」
「俺の見舞いのだろ?」
「俺のおやつだって言ったじゃ無いですか?」
「ああそう。じゃあ、返すか?」
「いらないです。喰いかけなんか」
「じゃあ、俺喰うわ。——所で彼は?」
「ああ、此奴は知り合いの士鶴です。一応、霊能者かな?」
士鶴は紹介も質問もされぬまま、とにかく付いて来ていた。
積まれた雑誌の上に腰を掛けている。
「ああ、どうも! いつも銀太がお世話になっとります!」
士鶴は何故か親指を立てて、元気一杯に言った。その親指の意図はわからない。きっと、特に何も無いだろう。
「よろしく。霊能者が2人は心強い!」
そう言いながら、藤田は士鶴に握手を求めた。
2人は固く握手をした。似たタイプのようだ。
「別に俺は霊能者じゃないですけど」
銀太は1人冷めた態度で否定する。
「今、そういうエヴァはロボットじゃない的なのは面倒だからいらない」
「感じ悪る」
「そう言うな。今は除霊が出来る人間が1人でも多く必要だ。俺みたいな被害者が出る」
「で? それ、どんな感じにやられたんですか?」
「昨日だ。襲われて防御しようと右手を上げて、スパッとやられたよ。首なら死んでたな。早めに処理しないとヤバイぞ。誰か死ぬ」
「昨日なんですか? 大丈夫なんですか!?」
「だから、めちゃくちゃ痛いと言ってるだろう」
藤田は大怪我を負っているが、悪霊をどうにかしないといけないという使命感から銀太に連絡して来たようだ。霊能者なら他にも沢山いるのに、銀太に連絡して来たという事は、それだけ早急な対応が必要なのだろう。
一々今回の事件の対処に適切な霊能者を選んで、悪霊が住む場所の管理者と引き合わせて、そこから正式に依頼してなんて、手順を踏んでる暇はないのだろう。緊急事態なのだ。
「場所だけ教えてください? 全部俺達でどうにかしてきます」
「俺も行くよ!」
「ダメっすよ。昨日に今日でしょ? とにかく、除霊は俺達が終わらせとくんで、後の取材は治ってから自分で勝手にしてください」
「お前らだけで、大丈夫かよっ!?」
「別に2人いるし、俺のやり方知ってるでしょ? 現場に行けばすぐに終わりますよ。それに藤田さん、ただのライターでしょ? 来ても邪魔にしかなりませんよ」
「まあね」
藤田は銀太が写真を写す事で霊を捕らえられる事は知っていた。
藤田は一瞬考え
「そうか。じゃあ、全部の現場の住所を渡すよ。頼むぜ!」
「はい。後どういう素性の霊達かの資料も貰えますか?」
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