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翌日には、俺は児童養護施設に引き取られていた。学校も転校になった。その後の母親や学校での俺の扱いがどういうことになったのかは一切分からなかった。多分誰かが話してはくれたのだろうが、理解できなかったのか、頭が受け付けていなかったのか、全く覚えていない。
施設での暮らしは悪くなかった。先生たちも優しかったし、だけれどそれなりに厳しく躾けてくれた。一緒に暮らす数人の仲間も、まあ、腹が立つやつもいたり、気の合うやつもいたり、色々だったが、おおむね悪くなかった。だけれど俺は何をしても満たされなかった。俺の胸には大きな穴が開いていて、何をしても何を食べても何を言われても塞ぐことができない。そんな感覚を抱いて生きてきた。あれから、八年間、ずっと。
あれは中二の冬が終わる頃だったろうか。施設の先生に呼ばれて別室に行くと、警察がいた。神妙な顔で、母親が死んだことを教えられた。人を刺して逃げる途中、車に轢かれたのだという。轢いた人が可哀想だなとぼんやり思った。
葬儀に出るかと問われて、俺は首を横に振った。もう親の顔も覚えていなかった。
それが契機だった。俺は解放されたと感じていた。それまで母親のことなんか一切気にしていなかったくせに、俺を苦しめたものがこの世から消えたという事実は俺の身を軽くしていた。
何でもできると思った。どこに行ってもいいと思った。このまま消えてしまってもいいと思った。
誰にも何も言わないで施設を出た。金も持っていなかったから、その辺の道で会ったおっさんをぶん殴って調達した。
そこからは、見事なクズ人生。
まっとうに生きられたかもしれない場所を出て、何がしたかったのかは自分でも分からない。ただ毎日生きることだけを考えていて、生きるためなら何をしても許されると勘違いしていた。人も殴ったし、盗みもしたし、もっともっと悪いこともした。町から町を転々として、その日の勢いでできた仲間のところに寝泊まりして、こんな年まで生き延びてしまった。
だけれどそんなの上手くいくはずがないんだ。
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