2 追憶ー1

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「健治くんはお仕事しとらんの?」  子どもというのは本当に不躾な質問を平気でする。健治くんはあまりにも俺の周りにいる大人と違いすぎて、なんだかこの世の人ではないような感じで、健治くんのことがもっともっと知りたくて俺は毎日たくさんのことを聞いた。彼はそれらに一度も嫌な顔をしたことがなかったし、答えをくれないこともなかった。はぐらかさず、真っ直ぐに俺の言葉に応えてくれていた。 「少しだけれどしているよ。ピアノを弾くのが僕の仕事」 「ピアノ? 学校の先生とー?」  俺は音楽の授業でしかピアノというものを聞いたことがなかったから、そう思ったのだ。そのときだけ健治くんは声をたてて笑った。馬鹿にしたわけではなく、純粋におかしかったのだと思う。 「お客さんの前でピアノを弾いたり、歌手の伴奏をしたり、曲を作ったりするんだ。今度怜央にも聴かせてあげるね」 「うん、聞きたい」  大人の「今度」は来ない。俺はそのことをよく分かっていた。だから本当は期待なんてしていなかった。なのに、健治くんは本当に俺にピアノを聴かせてくれたのだ。夏休みに入る少し前のことだった。
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