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小学三年生の子どもが一晩帰らなかったというのに、母親は何も言ってこなかった。あの頃はそれが当然だと思っていたけれど、今思うとあまりに酷くて笑えてしまう。
恐らくそれどころではなかったのだと思う。家に出入りする「知らない大人」を俺はぼんやりと母親のオトコだと思っていたけれど、多分その頃は違ったのだと思う。子どもだった俺には詳細が分からなかったけれど、借金取りとか、やばい仕事の人とか、そういう感じ。
母親がどんどん疲弊していっていたのは覚えている。家にいてもぼんやりと座っていることが多くて、一応用意されていたレトルト食品すら出されることがなくなって、そのうち米も尽きて、俺は給食と健治くんのくれるおかずだけで生き延びていた。それを薄っすら感じていたのか、担任が毎回俺に給食が多くあたるようにしてくれていたり、何度も家に来ていたことも薄っすらと思い出せる。
それでも俺はあまりつらくなかった。家庭が終わっているのは当たり前になってしまっていて「つらい」という感情すら湧かなかったし、何より、俺には俺の太陽がいた。小汚い俺を抱き締めてくれて、優しい言葉をかけてくれて、大好きだと言ってくれる健治くんがいたから、俺はつらくなかった。
なのに、あの夜。健治くんは俺を助けてくれなかった。
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