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第一章 黄泉とサッカーとSF *混ぜたら危険
「試合開始―!」
ホイッスルが鳴った。
サッカーコートを両チームとも走る。
……つーか、飛んでるのもいるんですけど。
技・地面にもぐるを使ってるのもいるわ。これルール内なの?
えー、(レポーター風に)ただいま目の前で繰り広げられております熱戦は、人外サッカー日本代表対ムー大陸代表の練習試合でございます。
いやぁ、すごいですねぇ。ボールがマジで雷まとって飛びました。ゴールキーパーが水壁でバリア。やばいです、雷に水は効果抜群では? おっと、ここで突風が巻き起こりました。軌道が変わってファール。フリースローとなります。
あ、ツッコミ好きなだけどうぞ。
「……えーと、なんでこんなことになったんだっけ……?」
☆
黄泉平坂骨董店、その実態は人ならざるもののトラブル解決屋。事故で天涯孤独になったあたしは本家であるそこに引き取られ、店主士朗お兄ちゃんはじめ四人の義兄と暮らしてる。
イケメン+陰陽師+義兄逆ハ―、設定もりもりでいいねって?
そうかなぁ。兄たちはみんな一癖も二癖もある人たちで、悪い人じゃーないんだけど日々あたしのツッコミスキルが向上してる。
そもそもあたし自身こん睡状態だった間、肉体の年齢が止まってて、実年齢と違う六歳として暮らしてるって異常さを持ってる。これがずっとこのまま六歳から成長してくのか、それともある日急に本来の年齢に戻っちゃうのかもわからず、正直不安だ。心配させたくないから言わないけど。
どうやらそこらへんの原因は神様の力の一部を持ってることにあるっぽい。
六年前、一族が『来るべき災厄』に対抗するため陰陽師なのに専門外の神下ろしやらなんやらをやったせいで、士朗お兄ちゃんたちは人じゃなくなってしまったという。あたしは記憶喪失なんで覚えてないけど、当時あたしも依り代として使われたんじゃ……? それで同じように神の力が少し残っちゃったんじゃない?
士朗お兄ちゃんにきいても答えてはくれなかった。
疑問が解けぬまま今日にいたる。
四番目の兄紅介お兄ちゃんが人外サッカー日本代表のメンバーってことで、応援に来たんだ。
どういうサッカーチームだよ、ってのはそのまんま。人間は一人もいない。神とか妖とかで構成されてる。外国だと魔女・魔法使い、吸血鬼、妖精、巨人、小人、精霊なんかもいるらしい。
だもんで技もおかしいっつーか、アニメか映画をリアルで見てる感じっつーか。
会場も普通のとこじゃできない。
「え!? 黄泉でやるの?!」
朝、どえらい行先告げられた。
さぁスポーツの観戦行くぞ~って、あの世と言われた人は絶対いないに違いない。
「死者の国じゃん! どうやって行くのよ」
「あ、それは簡単」
外に向かうかと思いきや、靴を手に屋敷の廊下を歩きながら士朗お兄ちゃんは言った。
この家は迷路みたいで、いまだにあたしは一人じゃ迷う。
防犯上とかいろんな理由でわざと入り組んだ作りにしてるらしい。
「ウチは比良坂だろ。なんでそんな苗字かっつーと、つまり出入口の管理を任されてたからなんだよ」
「屋敷の中にゲートがあるんですよ」
マジメな小学校の先生翠生お兄ちゃんが付け加えた。
「かつて黄泉への入り口はイザナキノミコトが大岩で塞ぎましたが、現在は通行可能となってます。いわば空港の出入国ゲートですね。許可があれば通れるんですよ」
パスポートとかいるの?
「ここだ」
「へー……ってちょい待ち」
あたしは盛大にビシッとツッコミチョップを入れた。
そこにはSFでありそうな、近未来感あふれる扉。
プシュウウウウって白い煙あげて開きそう。パスワード入力とかで。
「どっかの映画とかで見たやつ! この先宇宙船?!」
だとしたらちょっとワクワクだよ!
「いや、真逆で地下の黄泉」
「イラッシャイマセ」
「なんかロボット出てきた!」
微妙に人型な。ピポパポいってる。
「ロボットじゃなくて、付喪神な」
「これ付喪神なの?!」
それって普通古い骨董品がなるもんじゃないの?!
ロボットって新しいよ! 思いっきり現代だよ!
「ハイ、ハジメマシテ桃サマ、オミシリオキヲ」
片言だし、AIにしか見えん。
士朗お兄ちゃんはセンサーっぽいパネルに手あててる。
「指紋認証て、ここも現代的な。黄泉への入り口がめっちゃハイテク化されてる」
「違うぞ。神力・妖力認証」
「ハイテクなのかファンタジーなのか!」
「昔は本当にいかにもな、石造りの扉だったんですけどね。いちいち開け閉めが大変ですし、近年イザナミノミコトの趣……ご命令でリフォームされました」
趣味って言いかけた?
つか、千曳の岩をリフォームってしていいの?
プシューってSF風に扉があいた。
「ほら、桃行くぞー」
「あ、待って」
黄泉の国は意外と明るかった。
「明るいね。普通にドーム内みたい」
「人工照明つけてるからな。天井に映像投影もできて、この前は映画とか星空映してた」
「映画館かプラネタリウムか。よく怒られないね」
「イザナミ様はじめ女神たちがやってた」
そりゃ怒られないね。
明治~昭和くらいの街並みが広がり、中に現代的な建物もちらほら。
「ちょっと田舎の街みたい。車も走ってるって。あんま現世と変わんないね」
「昔と違って人間の霊も多く住むようになり、暮らしやすく変化したんですよ。ああ、みんな地獄の従業員です」
「従業員て」
「見かけは現世と似ていても違う点が多いですよ。例えば車ですが、動力は神通力や妖力・霊力、電力です」
「電気あるの?!」
エコカーかい。
「え、地上から総電線引いてるの?」
「いえ、自前の発電所があります。雷の神のお宅ですが」
神様を発電所替わりて。
「現在、神はほとんどが高天原や中つ国にいます。黄泉が地獄=刑場としての働きがメインになったため、人口でいうと最も多いのは受刑者の人間の霊。次は刑務官である鬼など妖、従業員である人間の霊ですね」
「へー」
「今回使わせてもらうのは彼らのレクリエーション施設です。そこなら多少のムチャしても大丈夫ですからね」
従業員用のレクリエーション施設まであるとは、ホワイト企業。
あと、多少のムチャってなにすんの?
会場は広い芝生の公園で、他にもテニス場やバスケコート、水泳場まで完備してるスポーツ施設らしい。すごい。
「どもっ。今日はよろしくお願いしまーす」
「こちらこそよろしくー」
両チームあいさつ。
え、何語でしゃべってるのかって? みんな神とかだから、テレパシー使ってる。何語でも直接頭に伝えれば理解できるんだってさ。
「みんな普通の人に見える」
「ルールでプレイ中は標準的な人間のサイズ・見かけでいるよう決まってるんだ」
「あ、そうなんだ。そりゃそうだよね、でなきゃ巨人対小人だったら圧倒的すぎる。じゃ、相手チームもほんとは違う姿なんだ?」
「いや。元々人型。超能力者なくらい」
「は?」
さらなるツッコミより早く、ホイッスルが鳴った。
……で、冒頭に戻る。
「うーわー。どっかのアニメか映画のアクションシーンみたーい」
「あはは。選手への直接攻撃は禁止だけど、能力の使用は可能だから。面白いよな」
「これケガ人出ない?」
「どっちも手加減してるし、人間じゃないんで頑丈だよ。万一ケガしても、そこに医学の神が医務係として控えてるし」
そういや白衣来たスタッフがいると思った。
神様をこんなとこに派遣してもらっていいんだろうか。
幸い、何事もなく試合終了。
「あー、楽しかったー」
紅介お兄ちゃんはスッキリした顔で帰ってきた。
「お疲れ様、紅介お兄ちゃん。すごい威力のサマー〇ルトキックしてたね」
「オレ、タヂカラオの力持ってるじゃん? 思いっきり使える機会ってあんまねーんだよ。時々こーやって発散させんのさ」
「確かに現代人間社会で使ったら問題だよね」
「さー、お待ちかねのお弁当タイムよ~♪」
二番目の兄蒼太お兄ちゃんがお重広げた。
「そいえばここぞとばかりに女性体になってチアガールやるかと思ったらしないんだね」
アメノウズメの力を持ち、気分によって肉体の性別を変化させて男性も女性も楽しんでる蒼太お兄ちゃん、今日は男性だ。
本人曰く、「男か女かってどっちかの選択じゃなくてもよくない? その時好きなほうを楽しむ、そんな生き方があってもいいでしょ」だそうだ。なるほどそういう考え方もあるのかと納得した。
「士朗に止められたのよ。なーに、もしかしてアタシの艶姿を人に見せたくなかったとか? 女体化は男の夢の一つだもんねぇ」
「ヤメロ。鳥肌が立つ。お前が踊ったらアメノウズメの力が発動して応援したやつをパワーアップさせちまうじゃないか。反則食らうぞ」
「だぁーいじょーぶよ。ちゃんと力は発動しないようにするもの。ルールは守らなきゃね」
あ、蒼太お兄ちゃんはオネェ言葉がデフォルトなんで。
「士朗ってばヤ・キ・モ・チ? もー、機嫌直しなさいよ。はい、あーん」
「やめろっつってんだ」
フォークにさして差し出されたタコさんウインナーを断る士朗お兄ちゃん。
いつものじゃれあいですな。
「もう、好き嫌いはダメよ」
「子ども扱いするな。俺のほうが誕生日前だろ」
「中身は子供じゃないの」
「ね、士朗お兄ちゃんって子供のころどんなだったの?」
とたんにお兄ちゃん全員口を閉ざした。
……あれ?
「…………」
なんか聞いちゃいけないこと聞いちゃったかな。
「あ、えーと、この卵焼きおいしいね」
あからさまかもだけどあたしは話題をそらした。
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