第二章 シリアスモード、突入

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第二章 シリアスモード、突入

 食後、のんびりしてると一人の美女がやってきた。  黒髪ロングヘア、清楚な白ワンピのきれいな人。  女神だってのは一目でわかった。オーラが違う。 「こんにちは。ちょっといいかしら?」 「イザナミ様」  お兄ちゃんたちはぱっと立ち上がって頭を下げた。  えっ、この方が。  あたしも慌ててならう。 「かしこまらなくていいのよー。今日はちょっと、その子……モモちゃんを見にね」 「あたし……ですか? あっ、失礼しました、初めまして比良坂桃です」 「ほんとは初めましてじゃないんだけどね」  …………?  イザナミノミコトは意味深にあたしを見つめると、手を取った。 「この子は黄泉初めてでしょ? 案内してあげるわ」 「え、そんな恐れ多い」 「イザナミ様」  士朗お兄ちゃんは珍しく焦って言った。 「なぁに? 比良坂士朗」  イザナミノミコトは一言で黙らせた。 「…………」 「初めて来た子に案内するだけじゃないの。いいでしょう?」 「……承知しました。ですが、くれぐれも」 「あら、危険はないわよ。この黄泉では何人たりとも私とこの子に傷一つつけられないわ」  女神はあたしの手を引き、にっこりした。 「さ、いらっしゃい」 「は、はい」  言われるままについていく。 「恐いとは思わないのね」 「え? あ、はい。それは。だって女神さまですし、なんていうか……お母さん?みたいな感じがします」  イザナミノミコトは笑った。 「ふふ。そうね」  歩くスピードが速い。でも苦も無く追いつけてる。  たぶん神通力なんだろう、周りの空間がゆがんでる気がする。実際の距離無視して進んでるっぽい。  イザナミノミコトは黄泉の女王だから思うがままってことか。  観光エリアだというところを指して説明してくれる。 「この辺りは外国からの観光客向けに、あえて和風テイストにしてあるの。日本人からしてみればごっちゃでしょうけどね」  五重塔、戦国時代の城、レプリカ富士山まである。 「時代劇村みたいですね」 「そうそう、あんな感じを目指したの。本物の忍者もいるわよ」 「マジですか」 「死んでて霊よ。雇ってショーやってもらっててね。さすが本物だからウケがいいわー。外国人観光客に大人気。まぁみんな人じゃないけど」 「外国の人は忍者好きですもんね」 「今後遊園地も作っちゃおうかなーと思ってるの。コスプレも楽しめるような。ああ、遊園地作る救いの神様みたいな人が他作品にいたっけ」  最後の何の話ですか? 「……あのー、黄泉って刑務所だって聞きましたけど」  なんかどんどん離れてってません? 「全部刑務所だと気が滅入るわ。従業員の娯楽作りも経営者としては考えなきゃ」  日本のトップ女神様は凄腕CEOのようです。ジョブチェンジしました。 「あと単純に私が楽しみたい。現世のだと気軽に行けないのよ」  それが本音ですね?  神話とはだいぶイメージ違って気さくな神様だなぁ。  そんなことを考えてると、いつの間にか観光地とは明らかに違う趣の門の前に立ってた。  どう見ても刑場テイスト。  ただの京都や奈良にある古い門のようだけど、なんだかオーラが。威圧感ていうか、違和感ていうか……。  イザナミノミコトが言った。 「ここは孤地獄よ」 「こじごく?」 「何らかの理由で特別な刑に服してる者の刑場よ。個別対応ってとこね。他とは違うんで、少し離れたとこにあるの」 「独房みたいなもんですか。あの、でもなぜあたしをここに……?」 「この中に貴女に会わせたい人間がいるからよ」  女神は爆弾発言を投下した。 「貴女の両親を殺した者たちに会ってみたいと思わない?」 「―――」  ……何を言われてるか分からなかった。 「あた……しの両親を殺した……?」  かすれ声が出る。  あたしには事故前の記憶が一切ない。  自分の名前すら憶えてなかった。もちろん両親のことも、どんな事故だったのかすらも。 「記憶喪失なのは知ってるわ。私もその場に居合わせたしね」  さらにとんでもない情報降ってきた。 「え!?」 「そして比良坂士朗が真実を言わないだろうことも知ってる。言えない、といったほうが正しいかしら。だから私が出張るしかないと思ってね」  士朗お兄ちゃんが言えない?  ドクドクと心臓の音が耳元でうるさい。  どういうこと?  門が開く。中は空間がゆがんでるのか、よく見えない。 「行きましょ。大丈夫、私もついてくから」  引っ張られて中に入る―――寸前、思いっきり後ろに引き寄せられた。 「桃!」 「士朗お兄ちゃん?!」  士朗お兄ちゃんはそのままあたしを抱えて後ろに大きく飛んで下がった。 「―――イザナミ様! おやめください!」  イザナミノミコトは仕方ないとばかりに首を振った。 「……ふう。甘いな、比良坂士朗」  口調がガラリと変わる。  ぐん、と存在感も増した。  圧倒的すぎる威圧感。まさに神―――黄泉の女王。  これが本物。  すごすぎる。普通の人間なら一瞬で気絶だ。  あたしはなんとか……あたしに向けられてるわけじゃないのと、士朗お兄ちゃんがバリア的なの張っててくれてるおかげで意識保ててる。  士朗お兄ちゃんは息をのみながらもあたしを離さなかった。 「おぬしが言わないから、妾が代わりに教えてやろうというのに。いつまでも黙っているつもりかえ?」 「……いつかは言います」 「嘘であろう。真実を教えてやり、それを乗り越えさせるべきだと思わぬか?」 「……ですが、桃はまだ子供です」 「一人前扱いしておやり。子ども扱いするでない。その娘はおぬしが思うより大人だよ」  優しい目つきであたしを眺める。 「それに、それは優しさではない。甘さだ。すでにその娘も矛盾に感づいておる。話してやるべきであろう」 「しかし!」  士朗お兄ちゃんは言いつのった。  いつの間にか、気づけば他のお兄ちゃんたちも追いついてきてた。後ろに立ってる。女神の迫力に恐れをなして固まってる。 「なぜかたくなに言わぬ? 蒼太・翠生・紅介の三人は確かに分家の者だが、その娘は一族の血は一滴も流れておらぬことを。おぬしも次期当主ではなかった。何よりも―――その娘の両親を殺したのはおぬしの一族であることもな」
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