12、初恋でもないのにね

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12、初恋でもないのにね

 まだまだ暑い九月中旬、新学期が始まるまであと一週間となった。私は今年で二回目だけど、毎年この時期に合宿を行うことがうちのサークルの慣例になっているみたい。  合宿とはいっても相変わらずゆるい感じだけど、文化祭に向けてそれなりに練習も必要だし、ほぼ全員が参加することに。  バスを一台借りて、それから荷物乗せるために車出せる人は出してもらって。大学から三時間ぐらいのところにある山の中のホテルに向かう。 「聞いてる?」 「ごめん、聞いてなかった。ちょっと酔ったかも」  隣の席の一花に話しかけられて振り向くと、一花は心配そうな顔で私を見る。 「カーブきっついよね。大丈夫?」 「もうすぐ着くから我慢しとく」 「帰りは慧に乗せてもらったら? バスよりはまだ酔わないでしょ」 「行きに乗ってきた子たちが帰りも乗るだろうし、私はいいよ」  一花はまだ何かを言いたそうにしてたけど、答える元気もなかったので窓の外を見ると、それ以上話しかけてくることはなかった。    慧の車で一緒に行くか聞かれたけど、断っちゃったんだよね。  慧と付き合い始めて、もうすぐ一ヶ月。  慧とは上手くいってるけど、サークルのみんなにはまだ内緒で付き合ってる。  車に乗せてもらうぐらいで怪しまれることはないかもしれないけど、なんとなく気が引けるというか。付き合う前よりも慧との距離に気を使っちゃう。
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