177人が本棚に入れています
本棚に追加
慧に電話してみようとポップコーンの屋台の前で足を止めると、スマホを取り出す前に誰かに肩を叩かれる。
「ねぇねぇ、君さっき歌ってた子?」
声をかけられて振り向くと、そこにはチャラそうな大学生らしき男二人組がいた。
「そうだよ〜。聞いてくれたんだ?」
「聞いてた聞いてた。歌上手いね」
「可愛いから、後で絶対話しかけようって思ってたんだ」
「ありがと〜」
チャラ男たちに色々話しかけられて笑顔を作ると、そのうちの一人に距離を詰められ、肩に手を回される。
「今時間ある? 俺たち別の大学から来てて詳しくないからさ〜案内してくれない?」
「ん〜と、」
「無理です」
彼氏いるからって断ろうとする前に誰かに割り込まれ、後ろから腕を引かれて引き寄せられる。私の腕を掴んでいる人を見上げると、やっぱり慧だった。
「あれ? 彼氏?」
「彼氏、かなぁ?」
「何で疑問形なんだよ」
いきなり割り込んできた慧に顔を見合わせるチャラ男二人組に愛想笑いを浮かべて答えると、慧が不満げにそんなことを呟く。
「こっちきて」
私の手を引いてどこかに連れていこうとする慧を止めることはたぶん無理だと思うので、後ろを向いてあっけにとられているチャラ男くんたちに手を振る。
手を引かれたまま人混みの中を通り抜け、図書館の近くの小さな森で慧は足を止めた。
「自分で断れるから大丈夫だったのに」
「見ず知らずの男は花音先輩に触れるのに、彼氏の俺は触らせてもらえないっておかしくないですか」
繋がれている手をさりげなく外すと、慧は明らかにムッとしているような顔を向けてくる。
「そういうわけじゃないけど、ここ大学だからね。大学の外ではいっぱい触ってるじゃん」
なだめるように慧の腕を軽くさすると、慧は小さく息をつく。怒らせちゃったかなぁ。
「今度ペアリングでも見に行きませんか」
「何で突然ペアリング?」
ムッとしていたかと思えば真顔でそんなことを言い出した慧の意図が掴めず、半笑いで聞き返すと、真顔で両手をぎゅっと握られた。
最初のコメントを投稿しよう!