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「花音先輩」
早足で学生会館を出ようとすると、たぶん私を追いかけてきた慧に入り口のところで腕をつかまれる。一枚ドアを挟んだドアの向こう側からはどこかのサークルか部活が外で盛り上がっている声が聞こえるし、階段の上からはうちのサークルの人たちが大騒ぎしている声が聞こえた。
振り向くと、両腕を掴まれて視線を合わせられる。
「みんなにバレたけど良かったんですか」
「だって、慧は私のだもん……。まりか先輩か雅史くんとキスしたかったならごめんね」
今さら恥ずかしくなってきて視線をそらすと、抱き寄せられて慧の胸の中にすっぽりと包まれた。
「どっちともしたくない。花音先輩だけです」
「まんざらでもなかったくせに」
「いや何でですか。俺は全力で拒否ってたけど。酔ってるだろ」
「酔ってない。まりか先輩美人だしなんか嫌だった。雅史くんだったらまだ許すけど」
「そこは許さないで。したくないです」
私を抱きしめたまま悲痛な声で訴えてくる慧がおかしくなって笑ってしまうと、つられたように慧も笑う。
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