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「まだ時間はあるし、そのうちやりたいことが見つかりますよ」
「そうだといいけどね。はあ〜……でも、そっかぁ。卒業したらバラバラになっちゃうんだね」
考えるだけで気が重くなってきて大げさにため息をつくと、慧がバッとこちらを見る。
「別れるみたいに言わないでくださいよ」
「別れたいわけじゃないけど。もし慧が海外行ったら、たぶん無理じゃない? 数ヶ月なら全然待てるけど、一回飛ばされたら数年でしょ? 私、遠恋とか絶対無理だから」
国内ならともかく、海外行っちゃったらそうそう会えないだろうし、それが数年続くなんて絶対無理。それこそ寂しくてどうにかなっちゃうよ。
しみじみとそう言うと、慧はしばらくの間黙り込んでしまう。
「まだメーカーに入社出来るかも分からないので。銀行とかも考えてますし……」
ようやく口を開いたかと思えば、そんなことを言い出した慧に思わず眉を寄せる。
「慧が他のとこ行きたくなったならそれはいいんだけど、もし私のこと考えてとかだったら絶対やめて。私のことよりもやりたいことを優先した方がいいよ」
「でも俺別れたくないです。遠恋無理なんですよね?」
「そうだけど、やりたいことがあるならそっちを目指してがんばった方がいいよ」
そう言うとまた慧は黙り込んでしまい、気まずい雰囲気になる。
「特にやりたいことがないのなら、もし俺が海外行く時はついてきてくれますか?」
重たい沈黙を破った慧の一言は正直予想外で、今度は私が口をつぐむ番だった。
なるほど。そういう選択肢もあるんだ。
実際慧がメーカー入社するかも分からないし、飛ばされるかも分からないし、実際どうなるか分からないけど。でももし数年行くってなったら、別れるかついてくかしかないんだよね、きっと。いつこっちに帰ってくるかも分からないのに待つなんて、私には絶対無理だし。
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