16、忘れたはずなのに

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「先輩と話さなくてよかったの?」 「今さら何を話すの?」 「だよね」  ふっと困ったような笑みを浮かべた一花から視線をそらし、薬指につけているペアリングを無意識のうちに触る。  ようやく忘れられたと思ったのに。  新しい恋も順調で何もかも上手くいってたのに。  あの時は私の話を聞いてくれなかったくせに。  何の話か知らないけど、話したいって言うなら、もっと早く言ってきてよ。どうして、今になって……。 『花音といると疲れるんだ』  別れた時の恩田先輩の言葉が頭の中に生々しく蘇り、指輪ごと自分の右手をぎゅっと握る。  慧も私と一緒にいて疲れるのかな。  今朝の電話は、どう考えても失敗だった。早朝からあんな意味不明な電話をして、面倒くさいと思われたかもしれない。こんなこと続けてたら、そのうち慧も私から離れていっちゃうかも……。 「私といると疲れる?」 「え?」 「私って面倒くさいかな?」 「うん」  口をついて出た言葉に即答され、絶句してしまう。さすが一花。 「私の友達の中でのんが一番面倒くさいよ」 「ねぇ、辛辣すぎ」 「アンタに付き合いきれるの私と慧くらいだからね。感謝して」 「……感謝してます」 「のんって面倒だしこじらせてるけど、それでも離れられない魅力があるんだよね」 「え〜なに突然。もしかして一花って私のこと好きなの? 慧と付き合う前に言ってくれたら良かったのに。私、一花だったら……♡」 「気持ち悪いこと言うのやめて。そんな冗談言う元気があるなら大丈夫そうだね」  演技がかった口調でぶりっこすると、心底呆れきっているといった感じの視線を向けられる。そんな一花に腕を絡ませ、お昼いこっと引っ張っていく。  一花なりに元気づけようとしてくれたんだよね。  少し心が揺れ戻りそうになっちゃったけど、私には一花もいるし慧もいる。今日はたまたま会っちゃったけど、もう恩田先輩に会う機会もないだろうし。そしたら、そのうち自然と忘れる。だから、大丈夫。大丈夫……、だよね。  そう自分に言い聞かせてみたものの、どうしても心の中から不安が拭いきれなかった。
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