16、忘れたはずなのに

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「同じとこでバイトしてるのに、話すの久しぶりだね」 「ごめん、ちょっと避けてた。気まずくて」 「分かる」  会えば挨拶くらいはするけど、磯川くんと致してからは挨拶以上の会話はなかった。でもそんなことを言いながらも、磯川くんも案外普通に話してくれてる。磯川くんに同意すると彼もこちらを見て、目を合わせて笑い合う。 「のんちゃんは彼氏出来たんだって? 上手くいってる?」 「うん、まあまあかな」  磯川くんにはそう返したけど、正直上手くいってるとは言いづらい。  説明会の後も慧とは普通に会ってるし、キスもしてるし、なんならえっちもしてる。  表面上は順調なんだろうけど、恩田先輩に会ったことでトラウマが蘇ったせいかな。慧に嫌われることが怖くなって、面倒だと思われないようにしなくちゃって常に気を張ってる状態。  それに、考えたくもないのに恩田先輩のことばっかり思い出しちゃうし……。何でこんなに考えちゃうのか分からないけど、こんな状態で慧と付き合ってていいのかなって罪悪感ばかりが募っていく。  たぶん慧もそんな私に気がついてて、距離を縮めようとしてくれてるんだけど、どうもギクシャクしちゃってるんだよね。 「そっちはどうなの?」 「秋頃に別れたんだ」 「え……」  予想していなかった答えに言葉を失う。  だって、彼女のことが大好きって言ってたのに……。
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