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「でも、今気まずい雰囲気になってるじゃん」
「まあ……。けど思ってることは言ってもらっていいんですよ。言われないと俺も分からないです」
「そうだね、じゃあ……。あのね、」
「うん」
両手を握ったまま私の答えを待つ慧の視線から逃げ、何を言うべきか考える。
「他の女の子とえっちしたいと思う?」
「は?」
慧の手をぎゅっと握って上目遣いで見つめると、慧は目を見開いた後にフリーズしてしまった。
「もし思うなら、してもいいよ?」
「いや……。本当にしていいんですか?」
「やっぱりしたいんだ?」
「そうじゃなくて、何で突然そんなこと言い出すのか理解出来ないから」
「私の知り合いがね、初めての彼女と長い間付き合ってたんだけど、不意に魔が差して浮気しちゃってね。それが原因で別れることになったんだ。そういう風になっちゃったり、途中で心変わりされるくらいなら、公認の上で一回他の女の子と試してみるのも悪くないんじゃないかって。
私はたくさん男の人を知ってるけど、慧はそうじゃないし、それがなんか申し訳ないような気もするし……」
口元に笑みを浮かべて視線を彷徨わせていたけど、それでも慧が困ったような顔をしているのが視界の端にうつる。
こんな話をしたら余計気まずくなるだけなのに、私は慧との関係を壊したいのかな。こんな話をしても嫌な気持ちにさせるだけだって分かってるのに、それでも自分の中で渦巻くモヤモヤを一人で処理出来ない。
私も、磯川くんと同じだね。
相手を嫌な気持ちにさせてでも、今の関係をぶち壊してでも、自分が楽になる道を選んでしまう。
いつこの幸せが壊れるのか怯えているくらいなら、いっそ不幸のどん底にいた方がマシだとさえ思ってしまう。
「すみませんちょっとよく意味が分からないんですけど、俺が心変わりするのが心配なんですか?」
「そう……なるのかな」
「それって、俺が他の女の子としたら何か解決するんですか? 俺が他の女の子とヤってきて、やっぱり花音先輩が一番好きって言えば安心出来るんですか?」
「う〜ん……」
「たぶんそうじゃないですよね。そんなことしても誰も得しないし、そんな意味のないことしたくない」
私の目を見て訴える慧に、そうだねと頷く。
慧の言うことは正しい。それがまともな人間の考えなんだと思う。だけど、みんながみんなまともで正しい道を選べるとは限らないんだよ……。
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