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「距離を置いたからって、絶対別れるって決まったわけじゃないよ。一回離れて、考えを整理する時間が必要なの」
「時間だけあったって解決するとは思えないけど。俺は嫌です。離れたくない」
「……慧。ごめんね、でも……」
「……。花音先輩には、時間が必要なんですね?」
言われた言葉にこくりと頷くと、慧は小さく息をつく。
「……分かりました」
「分かってくれてありがとう。ごめんね、慧。とりあえず帰るね」
重い空気に耐えきれずパソコンを片付けて帰ろうとしたけれど、立ち上がろうとしたら手を掴まれて引き止められる。
「花音先輩」
腕を引かれて引き寄せられて抱きしめられたけど、私を抱きしめる慧の腕が少し震えていて胸が張り裂けそうになった。
「離れたくない」
どうしたらいいのか分からなくて慧の腕の中で大人しくしていると、そんな言葉と共に強く抱きしめられる。慧がどんな気持ちで「分かった」って言ってくれたんだろうと思うと、胸が苦しくて勝手に涙が滲む。何か慧に言葉をかけようと思ったけど、涙が溢れて何も言葉にならない。
慧の腕の中で身じろぎすると、顔を近づけられて唇を塞がれた。唇で強引に唇をこじ開けられて、奪うようなキスをされる。苦しくて唇を開くと舌に吸い付かれ、息も出来ないほどにそれを強く吸われた。
「け、い……っ」
キスの合間になんとか名前を呼ぶと、私を抱きしめる慧の腕の力がさらに強くなった。
「やっぱり嫌だ。考え直せない?」
「慧ごめん。ごめんね……っ。私のせいで苦しめてごめんね」
顔を寄せて切実に訴えてくる慧にただ謝ることしか出来なくて、何度も謝罪の言葉を繰り返す。
「しつこくしてごめん。でもやっぱり俺、……」
「ううん、慧のせいじゃないよ。全部私のせいだから。本当にごめんね」
「時間が必要だって言うから距離を置くだけで、俺は別れるつもりないから。気持ちの整理がついたら、すぐに連絡して」
泣きそうな顔で私を引き止める慧に後ろ髪を引かれたけど、どうにか立ち上がって慧の部屋を出て行く。
ごめんね、慧。大好きだよ。
あんなに愛してくれたのに、本当にごめんなさい。
慧のことが大好きなのに、どうしていつまでも別の人が忘れられないんだろう。ようやく前に進めたって思ったのに、どうして何度も同じところに戻ってきちゃうの?
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