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「全然太ってないのに。ちゃんと食べて」
考え込んでしまっていたけど、慧から話しかけられてありがとうと言葉を返す。
「う、うん。心配してくれてありがとう。慧は元気にしてた?」
「俺は、まあ……。元気ではないですけど、それなりにやってます」
元気じゃないのって、確実に私のせいだよね。どう返していいのか分からずに曖昧な笑顔を浮かべる。
そのとき、慧の視線が私の右手に注がれていることに気がついた。指輪、かな。
距離を置いてはいるけれど、指輪を外す気にはなれなくて、慧とのペアリングは一度も外していない。
私も何気なく慧の右手を見ると、まだ薬指に私と同じデザインの指輪をつけてくれていた。指輪をつけてたからどうってわけじゃないけど、それでもまだ外されていない指輪を見てホッとしてしまう。
「この後バイトあるので、そろそろ行きます。本当にちゃんと食べてくださいね」
「うん、ありがとう。慧も元気でね」
今生の別れみたいな挨拶になってしまって、慧は微妙な表情を浮かべたけど、私に軽く頭を下げてレジに向かった。
まだ二週間しか経ってないのに、慧と毎日のように会っていた時のことがすごく昔のことのように感じる。
バイト終わりに慧の家に行くか慧が私の家に来てくれて、たくさんキスして抱きしめてくれたよね。バイトが遅くまであって会えない日だって、毎日電話したり連絡取り合ってたし。
でも今は触れてももらえないし、彼女どころか、友達よりもずっと遠い関係。
バイトは相変わらず行ってるし、あっきーが上手い具合に話してくれたみたいで藤田くんとも和解出来たし、バイトもゼミも大学も全て上手くいってる。恋以外は、……。
自業自得なんだけど、今の距離感がすごく辛くて悲しくて、去っていく慧の背中を見て涙が出そうになった。
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