175人が本棚に入れています
本棚に追加
/226ページ
駅前の居酒屋を出て、アパートに帰るために市電の列に並ぶ。
ひたすら無心で待とうとしたんだけど、さっきの先輩のせいでまた慧のことを思い出してしまったせいかな。慧のことばかり考えてしまって、込み上げてくる涙を必死で堪える。
離れてみて、慧がどれだけ私のことを大切にしてくれていたのか改めて分かったよ。
自分で言うのも何だけど、たぶん私と付き合うのは相当大変だったよね。すぐに不安になるし、こじらせてるし。もし自分が男だったら絶対に私とは付き合いたくないって思うくらいには、私は面倒くさいと思う。
それでも慧はそんな私に根気強く向き合ってくれて、私が不安になったらいつも優しく抱きしめてくれて、大好きだって何度も伝えてくれた。
もう抱きしめてもらえないのかな……。
慧に会いたいよぉ……っ。ぎゅってしてほしい。今すぐ会いたいよ……。
震える手でスマホを取り出し、衝動的に慧に電話をかけようとしたけど、やっぱりダメだとギリギリで思いとどまり、カバンの中にスマホをしまう。
離れたいって言い出したのは私の方だし、それに私はまだ恩田先輩を引きずってる。慧のことが大好きだけど、でもやっぱり恩田先輩のことも忘れられなくて……。
こんな状態で会いたいなんて言っても余計に慧を苦しめるだけなのに、そんなことして良いわけないよね。
「うっ……、ううっ、ひぐっ……うう〜っ……」
全然酔えないって思ってたけど、やっぱり酔ってるのかな。
平日の21時過ぎの駅前は、バイト帰りだったり遊んだ帰りの大学生や、仕事終わりの人たちで賑わっている。周りには人がたくさんいるのに、涙が止まらなくなっちゃった。
「あの、大丈夫ですか? どうかしたんですか?」
ボロボロ泣いている私を周りの人たちは遠巻きに見ていたけど、スーツを着たまだ若そうな男の人が心配して声をかけてきてくれた。
「だ、いじょぶです。ごめんなさい、すみません、ありがとうございます」
知らない人にまで心配かけてる自分が情けないし、申し訳なくてその場にいられなくなり、早口でお礼を言ってその場から走り去る。
最初のコメントを投稿しよう!