19、最初からそんなつもりなかったと思うよ

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「これでちょっとはスッキリしたんじゃない? 彼氏のとこに戻りなよ」 「そうしたいけど、もう手遅れかも。私、いつも慧———彼氏のことを傷つけてばかりだし、嫌われちゃったかもしれない」  恩田先輩はそうすすめてくれたけど、そんなに都合よく事が運ぶとも思えなくて、曖昧な笑みを浮かべる。  慧は私と別れたくないって言ってくれたけど、答えを出せないまま一ヶ月も経っちゃったし、今も慧がそう思ってくれているかなんて分からない。一ヶ月もあれば人の気持ちも変わるもの。返事も返ってこないし、慧はもう私を好きじゃないのかも……。 「すぐそうやって勝手に一人で諦める。人の気持ちを勝手に決めるなよ」 「え……?」 「それ、花音の悪い癖だぞ。 花音の彼氏のことは知らないなら何とも言えないけど、気持ちを伝えてみなきゃ分からないだろ」  恩田先輩は呆れたような笑顔を浮かべていたけれど、私を見つめるその目はすごく優しい。その目を見ているうちに、付き合ってた頃の恩田先輩も、ダメな私を叱りながらもいつも優しく見守ってくれていたことを思い出す。  変わってないんだね……。  私が好きになった頃の恩田先輩のままの優しくて穏やかな笑顔に胸がいっぱいになって、涙がボロボロと溢れ出す。  大好きだった。本当に本当に好きだった。  こんなに苦しい思いをするくらいなら好きにならなければ良かったと何度も何度も思ったけど、恩田先輩を好きになって良かった……。  結果的に上手くいかなかったけど、それでも私の好きになった人は本当に素敵な人なんだって、今なら胸を張って言える。  人もそこそこいるカフェの店内でいきなり泣き出したから、周りの人の注目を集めてしまっている。恩田先輩もきっと恥ずかしかったと思うけど、泣いている私に怒ったりせかしたりすることもなく、私が泣き止むまでずっと待ってくれていた。
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