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「慧……?」
久しぶりに抱きしめられて嬉しかったけど、慧がどういう心境でこうしているのかよく分からなかった。名前を呼んでみたけど、それでも慧は膝の上に私を乗せてぎゅっと抱きこんだまま何も言ってくれない。
慧の顔を見上げると、少し目を赤くした慧と目が合う。口を開こうとしたけれど、その唇を慧の唇で塞がれる。
「私のこと嫌いになったんじゃなかったの? 私のこと許してくれるの?」
唇が離れていった後、慧の目を見つめたけど、やっぱり何を考えてるのかよく分からない。でもキスをしてくれたことで少し安心してぎゅっと抱きつくと、しっかりと抱き返された。
「許すとか許さないとかじゃないです」
「それって、」
「俺は嫌いになったとも別れたいとも一度も言ってない。そっちが勝手に離れていったんじゃないですか。俺は……っ。俺は、花音先輩が戻ってくるのだけをただずっと待ってたんです」
めずらしく感情のこもった言い方をする慧に胸が締め付けられる。一ヶ月も距離を置いてたらそのまま自然消滅だってありえるのに、それでも私が戻ってくるのを待っていてくれてたんだね。
何か言わなきゃと思ったけど、伝えなきゃいけないことも伝えたいこともたくさんあり過ぎて、何から伝えていいのか分からない。私が何も言えずにいるうちに、慧が私の肩に寄りかかってきたので、その頭をそっと抱える。
「戻ってきてくれてありがとう」
「けい……っ。慧、ごめんね。本当にごめんなさい。私を受け入れてくれてありがとう」
ありがとう、なんて言われる立場じゃないのに。
それでもそう言ってくれて、私を許してくれた慧がどれだけ私を想ってくれているのかが伝わってきて、申し訳ないのと嬉しいのとで胸がいっぱいになった。
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