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「梅酒のロック二つ」
「何杯目?」
「五杯目か、六杯目ぐらい?」
小声で囁かれたことに答えると、慧は眉を寄せて怪訝な顔をする。また呆れられてるんだろうけど、話しかけてくれてちょっと嬉しい。
「もうやめといた方がいいんじゃないですか」
「私は大丈夫だよ。それより、あの子の方がヤバいかも。一花、あんまりお酒強くないから」
一花の方を見ながらコソコソ話していると、据わった目をした一花にジト目で見られてしまう。
「なに〜? 私の話?」
「慧がね、飲み過ぎなんじゃないかって」
「ちょっと」
「全然飲んでないよね?」
「うん。飲んでない」
慧には咎められ、一花には同意を求められたけど、とりあえず一花に同意しておく。
「ほんとかよ」
「ほんとだって。慧、店員なのに態度悪すぎ。早く注文したもの持ってきて」
「はいはい」
急かしてくる一花に慧は軽く息をつき、空いたグラスを片付けて戻っていった。
「思ったより普通だったね」
「そうだね。このまま友達に戻れたらいいんだけど」
慧がいなくなった途端に話しかけてきた一花に返事をすると、一花は私の目をじっと見てくる。
「友達に戻りたいの?」
「ん? うん」
「のんはそう思ってても、慧はそう思ってなかったりして」
「やっぱりまだ怒ってるかな?」
「そうじゃなくて、慧はのんのこと好きなんじゃない?」
「ナイナイ。あれだけやらかしたのに、好きになれるわけないよ」
「そうかなぁ」
一花は納得がいかなそうな顔をしてるけど、もし仮に慧が私のことを好きだったとしても、この前のアレで間違いなく嫌われたと思う。
「そうだよ。私だったら絶対こんな女と付き合いたくないもん。いいとこひとつもないし」
「自虐やめて」
「だって、そうじゃん。みんなに迷惑かけまくって生きてるし、害悪でしかない」
「それがのんの生き方だからね」
「ヤバい、超辛辣」
「顔と身体は、のんのいいとこだよ」
さすが一花。あえて性格には触れないとこがツボにはまり、クスリと笑みをこぼす。
「ありがとう。ちょっと元気出た。やっぱり一花は最高のベストフレンドだね」
「マイベストフレ〜ンド!」
よく分からないノリでグラスをぶつけ合ったあと、二人で一気にグラスの中のお酒を飲み干した。
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