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「ちょっといちかぁ、ちゃんと自分で立ってよ〜」
楽しい時間はあっという間に過ぎ、飲み放題の時間も終わってしまったので、すっかり潰れてしまった一花を支えながら、焼肉三郎を出ていく。
「ん〜? 立ってる立ってる」
「立ってないじゃん。ねえ、寝ないでってば」
一花ほどではないにしろ私もそれなりにお酒入ってるし、女一人で同じくらいの身長体格でほぼ寝かかっている一花を抱えるのは正直キツいものがある。
フラフラしながら階段を降りていくと、後ろから足音が聞こえてきて、なんとなく振り返る。
「あれ? どうしたの、慧」
そこにいたのは、黒いエプロンをつけたままの慧だった。この格好だけ見ると、バイト上がりってわけではなさそうだけど。
「大丈夫ですか。潰れてるみたいですけど」
「うん、大丈夫。この子、今日うちに泊めるから」
ちらりと一花を見た慧に笑顔を作ると、慧は私の反対側から一花の腕を支えようとした。
「家まで送ります」
「え、でもまだバイトあるんでしょ? 悪いし、戻りなよ。私一人で大丈夫だから」
「ここから先輩の家なら往復三十分もかからないし、店長に許可はもらってきたから大丈夫ですよ」
「そう? じゃあ……お願いします」
少し迷ったけど、私一人じゃ家にたどり着くまでに何時間もかかりそうだし、素直に甘えさせてもらうことにしよう。慧の顔を伺うと、慧は表情ひとつ変えずに、はいと返事をした。
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