175人が本棚に入れています
本棚に追加
/226ページ
「先輩は?」
「え?」
「前の彼氏に未練あるんですか」
前の彼氏。そう言われて思い浮かぶ人は、一人しかいなかった。
直近に付き合った人でも、その前の人でもない。私の心にいるのは、いつも恩田先輩だけ———。
「……ないよ」
「そうですか」
蘇りそうになる思いを握り潰すように笑顔を作ったけど、慧の顔からは相変わらず感情が読みにくい。
「うん。だから今は彼氏募集中。
どこかにいい人いないかなぁ。ダメな私を分かってくれて、愛してくれる人。なんて、いるわけないか。へへっ」
「いると思いますよ」
おどけて言ってみたけど、思いの外真剣な表情で見つめられて、心臓がドキリとした。
「あ、もうここでいいよ。後は私一人で大丈夫だから。ありがとうね」
そのとき、私のアパートの前についたので、早口でそう言って慧から離れ、一花を抱えてエレベーターに乗る。
「いえ。じゃあ、またサークルで」
「う、うん。あ、そうだ、慧!」
「なに」
去っていく慧を呼び止めると、慧は足を止めてこちらを振り返った。
「私たち、これで仲直りってこと?」
「どうかな」
口ではそんなことを言いながらも、ふっと笑みを浮かべた慧に嬉しくなって私も笑顔になる。
「また今度慧も飲みに行こうよ」
「来年の8月以降に誘ってください」
「あ、そっか。慧はまだ飲めないんだよね。
え、じゃあ、今は私と二歳も違うってこと? わかっ」
「……大して変わらないですよ。
メシならいつでも」
「うんっ! また誘うね!」
ぶんぶん手を振ると、慧も小さく手をあげてくれた。とりあえずこれで仲直り、かな?
最初のコメントを投稿しよう!