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「あ、ここでいいよ。ありがとう」
無言のままアパートに着いたところでお礼を言って、慧の背中から降りようとする。
「部屋まで送りますよ」
「片付ける時間なくて、ヤバいくらい汚いんだよね」
「大丈夫です」
本当に大丈夫かなぁ。今の汚さマックス状態の部屋を見せれるの、一花しかいないんだけどなぁ。
*
「うわっ……」
「ね〜? だから言ったでしょ」
部屋のドアを開けると、案の定慧は絶句してしまう。だから言ったのに。
「この部屋、人間の住む部屋じゃないです」
「あはっ、そこまで言う?」
一目見るなり思いっきりドン引きしてくれたけど、慧に引かれるのも無理はないよね。
今の部屋の状態はというと、床には服やら大学の教科書やら書類やら、ありとあらゆるものが散らばっていて、足の踏み場もない状態。かろうじて無事なところといえば、ベッドくらいかな。
「前来た時はもう少し片付いたじゃないですか。どうしたらここまで汚く出来るんだよ」
「忙しかったからかなぁ?」
ベッドにドサっと降ろされ、慧から問い詰められたけど、反論のしようもなく視線を泳がす。
「いくら忙しくてもこれはないです」
「誰かに言われたんだよね〜。部屋の片付けが出来ない女は、男にもだらしないって」
人が来る前は一応片付けるけど、ショックなことがあったり忙しかったりすると、すぐに部屋が汚くなるのが私の悪い癖。今回は———磯川くんのことがあってから、なんか色々どうでも良くなって……。
一人暮らしだから、歯止めが効かなくなるんだよね。この大惨事をお父さんやお母さんに見られたら、ブチ切れられそう。
「分かってるなら片付けろよ」
「だよね」
笑顔で同意すると、盛大にため息をつかれてしまった。
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