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「……あ」
「なに」
いい感じで眠れそうだったけど、ふいにあることを思い出してしまった。
「藤田くんのファーストキス奪っちゃったかも」
ひとりごとのようにつぶやくと、眉を寄せて怪訝な顔をした慧と目が合う。
「藤田くんが誰か知りませんけど、他の人もいたのにキスしたんですか」
「ゲームだよ。王様ゲーム」
「は?」
「王様ゲームにキスは付き物でしょ?」
「知りませんよ。ゲームなら、その人も気にしてないんじゃないんですか」
「そうかなぁ。気にしてないといいけど」
「童貞奪われるよりは気にしないんじゃないですか」
「あはは……。あれ、慧のファーストキスって」
「一応キスの経験はありますので、ご心配なく」
ふと思い立って言葉を止めたけど、真顔で即答されたので少しホッとする。
「だよね、彼女いたもんね。さすがにファーストキスまで私だったら、申し訳なさ過ぎてどうしようかと思った」
愛想笑いを浮かべると、やっぱり真顔でじっと見つめられ、反応に困ってしまう。
「いつもそういうことしてるんですか?」
「え?」
「ゲームでキス」
「あ〜王様ゲームは初めてかな?
あんまり気乗りしなかったんだけど、みんな盛り上がってるし、彼氏もいないし、断れなくて」
「そこは断れよ」
ピシリと正論を言われてしまい、えへと愛嬌を見せるけど、もちろん無視される。
「でもさ〜流されちゃう時とか断れない時ってあるよね。慧もさ、初めては彼女が出来て自然とその時がどうのってあれだけ豪語してたのに、結局私に流されてえっちしたじゃん。
人のこと言えないよね」
こんなこと言える立場じゃないんだけど、まだお酒が抜けていないせいか私の口は止まらない。一人でベラベラ喋っていると、いつのまにか慧は顔をしかめていた。
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