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「一限あるんで、そろそろ行きますね」
謝罪の言葉を考えているうちに声をかけられ、パッと上を向く。
本棚に置いてある時計を見ると、もう9時過ぎ。一限は9時半からだから、今から行ってギリギリってとこかな。途中で帰ることも出来たはずなのに、私が起きるまで居てくれたってことだよね……。
「何から何までありがとう……、ございます。
昨日も迎えに来てくれてありがとう。慧が来てくれなかったら、今頃路上で寝てたかも」
さすがに色々と申し訳なく思い、頭を下げる。
「……いえ。特にやることもなかったんで」
「ううん、本当にありがとう。助かりました」
眉を下げて両手を合わせると、慧は私の顔をじっと見つめながら一歩距離をつけた。
「もういいです。それより、しばらく酒は控えた方がいいんじゃないんですか」
「そうなんだけどね〜。嫌なことがあるとついつい飲んじゃうんだよね」
たぶん心配してくれてるんだと思うけど、その忠告は守れそうになかったので笑ってごまかす。
「そんなにストレスたまってるんですか?」
「まあね。生きてると色々あるよね。慧もそうでしょ」
「そうですね。花音先輩のこととか」
「あ〜……」
「冗談です」
「今の、冗談じゃなかったよね」
真顔で言われても全く冗談だと思えないんだけど。苦笑いを零したけど、慧は私の質問には答えてくれなかった。
「それなら、今度飲む時は俺も誘ってください」
代わりにそんなことを言われ、予想外な発言に一瞬反応が遅れてしまう。
「でも慧は飲まないよね?」
「飲まないけど、俺がいた方が男と変な雰囲気にならなくてすむでしょ」
「え〜と、それは———」
「どうせ夜は暇してるんで、夜中でも呼び出してもらって大丈夫です。バイト終わった後ならいつでもいけるんで」
さすがにそれは彼氏でもないのに申し訳ないよ、と言おうとしたけど、私が口を開く前に慧はさらに言葉を続ける。
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