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ラーメン屋から歩いて五分ほどで慧のアパートに着く。慧の部屋に来るのはこれで二回目だけど、相変わらずきちんと整理されていて、綺麗な部屋。
慧に出してもらった冷たいウーロン茶を飲んでいると、壁に立てかけられているギターケースが目に入る。
「家でも練習してる?」
「たまに」
それを指差すと、慧もギターケースの方をチラリと見てから頷く。
「ねぇねぇ、ちょっとギター弾いてみてもいい?」
「弾いたことあるんですか?」
「高校生の時にちょっとだけ」
「そうですか。どうぞ」
ダメ元で言ってみたんだけど、あっさりとOKが出た。
すぐに立ち上がった慧はギターケースを手に取ると、ケースから黒のエレキギターを取り出し、手慣れた様子でヘッドホンとアンプとギターを接続する。それから、私の頭にもヘッドホンを被せると、スマホのアプリで原曲とコードを流してくれた。
「弾けるかなぁ。……ん〜なんか変だよね」
スマホの画面に出てくるコードを見ながら弦を押さえてみるけど、思ったように音が出ない。どうやるんだったかなぁ。
高校生の時に一通り楽器はやって、キーボード は家でも少し練習してたけど、ほぼほぼボーカル専門だったし、ギターを弾くのは数年ぶり。
「押さえるとこ違いますよ」
うーんと首をひねっていると、私を包み込みように後ろから手を回され、両手を上から握られた。
「手小さいですね」
「そう?」
そこまで自分の手が小さいと思ったことないけど、言われてみれば小さい方かもしれない。というよりも、慧の手が大きい気がする。
「慧は手大きいね。指も長くてうらやましい」
これだけ指長かったら、楽器を弾くのにも向いてそう。そんなことをぼんやり考えていると、慧が無言で私の手をぎゅっと握った。
「これじゃギター弾けない」
「真面目に弾く気なかったんじゃないですか」
クスクス笑いながら慧の胸にもたれかかると、慧は私からギターとヘッドホンを取り上げて床に置く。
「え〜あるよ。教えてよ」
「やる気があるなら今度教えます」
「今度って———」
慧の方に首だけで振り返ると、その瞬間に唇を重ねられた。
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