176人が本棚に入れています
本棚に追加
/226ページ
「のん、まだ恩田先輩のこと———」
「もう無理だって分かってるよ」
そう、そんなことはとっくに分かってる。だけど、———。一呼吸おいて、口を開く。
「ただ、戻れるものならあの日に戻ってやり直したいって今も思ってる。もしあの日に戻れたら、もう二度と間違えないのにって」
ぽつりと呟くと、一花が私の手を上からぎゅっと握った。
「まだ好きなの?」
「どうだろ。でもさ、……。
恩田先輩と別れてからとにかく寂しくて、色々な人と付き合ったりえっちしたりしたけど、誰のことも本気で好きになれないんだよね。なんか恩田先輩以外はみんな一緒に見えて」
「みんな一緒って、慧も?」
「慧は、……」
答えを探してみたけど、一花からの質問にどう答えたらいいのか分からなかった。
当たり前だけど、慧は恩田先輩じゃない。
私が求めてる人じゃない。
それでも、慧は「他のみんな」と一緒ではない気がする。慧はちゃんと私を見てくれて、私のダメな部分を知っても一緒にいてくれる。
私だって慧が大切で、慧を失いたくないと思ってるよ。でもさ、だからこそ慧じゃダメなんだ。
「今のアンタ見てると、本気で心配。のんはさ、本当はそんなにいい加減な子じゃないはずでしょ。
慧と付き合ってくれたら、私も安心なんだけどな。のんには慧みたいにしっかりした人が合ってるよ」
「買い被りすぎだよ。私は根っからのクズだから」
「のん」
おどけて茶化したみたけど、咎めるように名前を呼ばれ、いたたまれなくなって視線を逸らす。
最初のコメントを投稿しよう!