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しばらくしても何もなかったので目を開けると、呆れたような目で私を見つめている慧と目が合った。
「そういうとこですよ」
「……。藤田くん———その人にはしてないもん」
「どうだか」
「本当だよっ!」
私の日頃の行いが悪いせいだけど、何を言っても信じてくれないのでついムキになって言い返してしまう。
キス、されるかと思ったのに。
別に今さらキスくらいでドキドキしても仕方ないけど、いきなりだったからドキドキしたというか、されると思ってたのにされなかったから残念というか。
本当は慧とキス、したかったのかも。
キスして、そしてその腕に抱かれて———。
「その人と付き合うつもりなら良いですけど、もしその気がないならあんまり思わせぶりなことしない方がいいと思いますけどね」
まだ調子がおかしい心臓の鼓動を整えていると、ふいに話しかけられて顔を上げる。
「だから、思わせぶりなことはしてないって」
「それは知りませんけど、このまま放っておいたら面倒なことになりますよ」
真顔で警告され、たしかにと納得する。
それは私も思うけど、同じバイトだし藤田くんとは帰りも一緒になることも多い。いきなり避けるのも感じ悪いよね?
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