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「慧。もう、」
「挿れていいですか?」
こくりと頷くと、慧は私の頭を撫でてから、ベッドを離れる。
「ゴム、前と同じとこにあります?」
「うん」
こちらを振り返った慧に返事をすると、慧は棚からコンドームの箱を取り出す。箱を開けて、包みを取り出したとこまでは見てたけど、それをじっと見つめたまま慧は動かなくなってしまった。
「どうしたの?」
不思議に思って声をかけると、箱を手に持ったままこちらに戻ってきて、ベッドのふちに腰かける。どうしたのか分からないけど、なんだか様子がおかしいので、私も身体を起こして慧の隣に座ることにした。
「これ、前に俺が使った時はもっとたくさんありましたよね?」
「え?」
「誰かと使いました?」
思ってもいなかったことを言われ、言葉に詰まってしまう。
たぶん前に慧が使った時は10個入りが満タンに入ってたと思うけど、磯川くんと四回くらいシたから、だいたい半分くらいは使ったことになる。あれから時間が経ってるとはいえ、さすがに半分くらい減ってたら気づかれてもおかしくないか……。
「使ったかも?」
とりあえず笑って誤魔化しておくと、慧は私の顔を見ずにため息をつく。
「他の男の使い残しのゴムを俺に使わせるんですね。デリカシーなさすぎ」
「そんな言い方しなくても……」
「だったら、他にどんな言い方したらいいんですか」
明らかに苛々してるような慧の言い方に、私も少しカチンときてしまう。
「何なの? 私が悪いの? じゃあ捨てて新しいの買ったら良かったの?」
「そういうこと言ってるんじゃなくて、好きな人が他の男とセックスした事実を知りたくなかったんです」
「私が処女じゃないことは知ってたでしょ?」
「だからそうじゃなくて。そんな前のことは言ってないです。そうじゃなくて……。
花音先輩と初めてセックスしたあの夜は俺にとって特別だったのに、花音先輩にとってはそうじゃなかったんですね。本当は花音先輩も俺のことを特別だと思ってくれてると信じてたのに、結局は俺もその他大勢の一人だったことがショックだっただけです」
どこか苦しそうな慧から言われたことに私まで胸が締め付けられ、苦しくなる。
慧のことをその他大勢の一人だなんて思ったことないけど、実際慧とえっちした後で他の人としたのは事実だし、今さら特別だと思ってるなんて言ったところで信じてもらえるわけない。
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