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「何か言ってください」
「……何て言ったらいいのか分からない」
「ごめんなさい、さっきのは俺の気持ちを押し付けました。取り消します」
「……」
「ただ、俺は……。他の男としてほしくないんです」
うつむいていると上から手を重ねられ、顔をあげると優しい目をしている慧と目が合った。優しい目をしているのに、やっぱり慧は辛そうで。自分が極悪人みたいに思えてきた。
慧といると、自分がすごく汚れてて悪い人間に思えてくる。慧がピュアだから。慧は私がとっくに無くしたものを持ってるから。
「慧はさ、私に何を期待してるの?」
「何って、」
「私がいつ慧だけだって言った?」
「花音先輩」
胸が苦しくて辛くて、どうしようもなくイライラする。そんな風に綺麗で特別な付き合いがしたいなら、最初から他の女を選べばいいのに。
自分がまともで綺麗な付き合いが出来るからって、勝手に期待されても困るよ。私には、そういうの無理だって分かってるくせに。
慧が戸惑っていることには気がついたけど、私の口は止まらなかった。
「私がこういう女だって、最初から知ってたでしょ。私が誰とえっちしても慧には関係ないじゃん。彼氏でもないんだから口出ししないで」
吐き捨てるようにそう言うと、慧が息をのんだのが分かった。
「……そう、ですね。関係ないですね。
彼氏でもないのに口出ししてすみませんでした」
立ち上がってシャツを着た慧を引き止めようと手を伸ばしかけたけど、引き止めたところでどうしていいのか分からない。結局何も言わずに慧が出ていくのを見守り、手持ち無沙汰になった手をおろした。
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