10、もう一度チャンスをください

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 部室に来たのはいいんだけど、なんだか慧と目が合わせられない。誰にも見つからないように隅っこの方に一人で座り、ひたすら存在感を消す。 「こんなとこで何してるの? 練習しないの? 今空いてるみたいだけど」 「練習する。でもちょっと待って。今慧に近づかないようにしてるから」  ベースを背負った一花に声をかけられて小声でそう囁くと、一花は怪訝そうな表情を浮かべる。 「なんでよ。あ、告白どうなったの?」 「付き合うことになった。で、今日サークル終わった後にデートいこうって」 「やっとくっついたか。良かったね」 「良くない〜。気まずくて死にそう。一花も一緒にきて」 「は?嫌だよ。私が行った方がよっぽど気まずいでしょ」 「え〜三人でご飯行ったことあるじゃん。何でダメなの?」 「初デートに私がついてきたら、慧は嫌だと思うよ」 「そう思う?」 「うん、確実に」 「そっかぁ、そうだよね」 「がんばれ。何かあったら電話して」  そんな話をしながら部室の隣の部屋の移動すると、すでに練習を始めてるとこもいくつかあった。部室にもちょこっと楽器は置いてあるけど、こっちは丸々練習だけに使っていて、ドラムみたいな大きい楽器は全部こっちに置いてある。 「うちらも学祭で演奏する曲そろそろ決めなきゃ」 「だね」  一花に話しかけられて相槌を打つと、キーボードをセッティングしているみくちゃんと何かを話している慧が視界に入った。  慧は……、やっぱり学祭もみくちゃんたちとやるみたいだね。  別に学年混同でバンド組んでもいいんだけど、長くやってるともうすでにメンバーが決まってることも多くて、結局二年は二年、一年は一年で組むことが多かった。 「慧と一緒にやりたかった?」 「ん〜。一緒にやりたかったような気もするけど、それはそれで気まずいから別で良かったのかも」 「それもそうだね」  こそこそと耳打ちされたことにそう返すと、一花も納得したように頷く。  それから学祭で演奏するメンバーで集まって、その日は曲決めだけで練習が終わった。
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