the Final Lesson. the best way to learn English

1/2
45人が本棚に入れています
本棚に追加
/147ページ

the Final Lesson. the best way to learn English

 錆びついた取っ手を握りしめ、思い切ってドアを引いた。  ペンキの剥げたドアがキィっと軋み、頭上でカランカランと軽やかにドアベルが鳴った。  お世辞にも綺麗とは言えないカウンター席だけの細長い造りの店内は、昼間なのに薄暗く海外ドラマにでも出てくるような雰囲気を漂わせていた。  カウンターテーブルの正面の棚にはアルコールの瓶が乱雑に並べられ、タバコのヤニが染み込んだ壁面には金髪美女が素敵な笑みを浮かべるポスターがだらしなく剥がれて垂れ下がっている。  奥の天井近くに取り付けられた古びたテレビが無駄話をするように雑音のようなニュースを流し続け、店内に客らしい客はいなかった。  年季の入ったカウンターテーブルの向こう側で、いかつい見た目のお兄さんがこちらに気づいて手元の作業から顔を上げた。  私は唇に人差し指を当てて、何かを言おうとしたお兄さんの言葉を遮った。このジェスチャーは万国共通なのだろうか、お兄さんは手のひらを口元に当ててちょっと訝しげな表情で私を見た。  気を付けていないと笑いがこぼれ出てしまいそうだ。  私は笑いを必死でこらえながら人差し指を唇から離し、カウンターテーブルに突っ伏しているおっきな背中を指差した。  ブルーのチェックのシャツを羽織ったおっきな背中の上で、カウンターテーブルに転がったお月様が規則正しく揺れている。  私は、やっと追いついたその背中に恐る恐る触れた。そおっと腕を脇の下にくぐらせ、頰を背中にくっつけた。  トクントクン……。  トクントクン……。  規則正しい鼓動が私を包む。  その鼓動に紛れて、くつくつと小さな笑い声が背中を伝って聞こえてきた。 「こんなとこまで、よぉ来たな 」  私は彼の背中から一旦頬を離して、ヒースの横顔を見上げた。上体を起こした彼は、テーブルに肘をついてくつくつと肩を揺らしている。  カウンターの向こうにいたいかついお兄さんは私とヒースが知り合いだと分かると、何やら彼にペラペラっと言ってさっきまでの作業に戻って行った。
/147ページ

最初のコメントを投稿しよう!