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私はカフェから飛び出して大通りまで全速力で走った。
もしかして自己新記録が出るんじゃないかってくらい、走った。
希美さんの言っていることは本当だろうか。
一瞬そんな考えが脳裏を過ぎった。
でも、彼女のあの私を試すような瞳が嘘を言っているようには見えなかった。
「お客さん、空港ってどちらですか? 」
タクシーの運転手さんがバックミラー越しに、少し躊躇いがちに聞いてきた。
彼は、「空港まで、」とだけ言って車内に乗り込んできた私の息が整うまで待っていてくれたようだ。
そう聞かれて初めて私は、自分の手の中にある情報がヒースのフライトの時刻だけだと言うことに気がついた。
都内から国際線に乗るために考えられる空港は二つある。飛行機とほとんど馴染みのない私にはその違いはよく分からない。
私は自分の勘と運に賭けた。
こちらの方が大きかったような気がするってくらいの判断だった。
「な、成田まで 」
「ターミナルは、分かりますか? 」
新たな難問が飛んできた。
ターミナルって、そんなにいくつもあるのだろうか。
「行き先は? 飛行機の便名とか分かりますか? 」
私の困惑した表情を見かねたように、運転手さんがヒントをくれた。その顔には薄っすらと困ったような笑いが滲んでいる。
「えっと、18時35分発の便で、イギリス行きってことしか分からなくて 」
「イギリスならロンドンのヒースロー空港かな? 」
そのような気もするし、そうじゃないような気もする。そんな感覚が私の不安を煽ってくる。
「それなら、恐らく第一か第二ターミナルだとは思いますけど。とりあえず第二ターミナルに向かいますから、そこで聞いてみたらいいんじゃないですか? 」
運転手さんは弱ったような声でそう言った。私は他にどうすることもできなくて、力ない笑みを浮かべながら頷いた。
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