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タクシーが止まると同時に支払いを済ませ、私は開いたドアから飛び出した。
最初に目についた入り口をくぐり、入ってすぐのインフェメーションカウンターのブースの前に近づいた。
楕円形のブースの中には、紺色の制服を着た係のお姉さんが二人座っていた。片方のお姉さんは正面に立った観光客の話を聞きながら何やら画面を操作していた。
もう一人のお姉さんがこちらに気がつき、にっこりと微笑みながら声をかけてくれた。
「ありませんね。本日は、ヒースロー行きの直行便はすべて終了しております 」
私が覚えたての空港の名前を告げると、すっきりとした顔立ちのお姉さんは申し訳なさそうにそう言った。
「あ、あの、もう一度確認して頂けませんか?18時35分の便なんです 」
私の焦りに気圧されるように、お姉さんは少し困惑しつつも再び手元の画面を操作し始めた。
もしかしたら、こっちの空港じゃなかったのかもしれない。焦りと不安が入り混じりながらじわじわと私を包み込み始めた。
「あっ、もしかして 」
フライトを検索していたお姉さんが嬉しそうな声を上げた。彼女は顔を上げて私と目が合うと、少し恥ずかしそうにニコリと笑った。
「18時35分の便と言うと、このソウル行きしかないんです。もしかしたら、ソウルで乗り継ぎなのかもしれません 」
お姉さんはメモ用紙にサラサラとそのフライト情報を書いてこちらに差し出した。
腕時計の針はもう少しで18時を指そうとしていた。
悩んでいる時間はない。
わずかでも可能性があるなら行くしかない。
私はお姉さんにお礼を言って、足が絡まりそうになりながら彼女が示したエスカレーターの方に爪先を向けた。
「会えるといいですね 」
その優しい声に振り向くと、お姉さんが柔らかな笑顔を浮かべながら小さく手を振っていた。
私はもう一度彼女に向かってぺこりと頭を下げて、自分の進路に視線を向けた。
長いエレベーターを駆け上がる。
手すりにつかまりながら、私はひたすら上を目指してもがいた。
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