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真島さんの言葉を咀嚼しながら、ふと柵の先に目を向けた。
向こうの方で羽を休めていた飛行機が一機、ゆるゆると歩き出した。ゆるゆる歩きが次第にスピードを増し、滑走路に向かうのかさらにその向こうの方へ走って行く。
もしかしたら、あの飛行機にはヒースが乗っているのかもしれない。
もう、会うこともないのかな。
プツンッと、ピンと張った糸が切れるような感覚を覚えた。いつの間にか抑えてしまっていた感情が緩んで、頰を涙が一筋伝った。
緩んでしまった糸は垂れ下がったまま、涙を堰き止めようともしない。
「あいつに、朝っぱらから電話で叩き起こされたんだよ 」
こぼれてくる涙を持て余しながら俯いている私の上に、真島さんの呟きが落ちてきた。私の今の状況を察しているのかいないのか、その声はどこか笑いを含んでいる。
「マンションの前にいるから、何も聞かずに車出せって言って 」
穏やかな休日の朝にいきなり押しかけられて不機嫌な真島さんの顔と、我儘を我儘とも思わないようなヒースの顔がふっと浮かんだ。
自然と、少し湿った笑いが漏れた。
「どこまで、自分勝手なんでしょうね 」
「だろ? みんな、あいつに振り回されて。俺もお前も、希美ちゃんだって 」
「希美さんも……。彼女、今日ヒースの帰国を私に知らせに……、 」
彼女は、どうしてヒースと一緒に行かなかったのか。
そしてなぜ、ヒースの出発をわざわざ私に教えに来てくれたのか。
頭の中でいろんなモノがこんがらがって、何を、どこから、どう聞けばいいのか分からない。
「それは、最上階手前まで連れて行かれて突き落とされた腹いせ、ってとこだな 」
「なんですか、それ? 」
私は自分がぐちゃぐちゃの顔をしていることも忘れて顔を上げ、真島さんを見た。
「だって、そうじゃなかったらもっと間に合うように教えるだろ? そんなギリギリじゃなくてさ。まぁ、一目でも間に合っていた方があいつにとってはダメージは大きかったかもしれんが、な 」
自分だけ納得したようにくつくつと肩を揺らしながら笑っていた真島さんは、私の視線に気づいて笑いを切った。
「あいつは、あの時、誰でもいいってのは本気で言っていたらしい。実際、希美ちゃんはタイプだったらしいからな 」
まるであの夜のヒースの言葉を聞いているようで、少しだけ胸がツキンと痛んだ。
「一緒にイギリスに連れて行く気もあったようだし。ただ、 」
次の言葉を吐き出そうとしている真島さんの顔は、穏やかで、まるで世話の焼ける弟を思い出しているかのような顔だ。
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