lesson 9. chase the last chance

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 結局のところ、私達はみんなヒースの我儘な策略にまんまと振り回されていたのだ。  私も、真島さんも、そして希美さんも。  ヒースが “敵を欺くには味方から” なんて思っていたかは分からないけれど、フレッドさんと志穂さんだってヒースが帰ったと知ったのは、彼が出発した次の日に空港の消印が押されたクリスマスカードが届いた時だったそうだ。  フレッドさんはやれやれと呆れたように肩を竦め、その横で志穂さんはいつにも増して悔しそうな顔をしながら、クリスマスパーティーの間中ずっと誰にとはなしにヒースへの文句をぶつぶつと呟いていた。  もしかすると、ヒースの策略の一番の被害者は希美さんだったのかもしれない。ヒースに想いを寄せ、彼を追いかけて行こうとまでした彼女の想いは、ヒースの我儘に振り回され砕け散った。  希美さんには、あの日以来一度も会っていない。私には今回の出来事がトラウマになっていないようにと願うことしかできないけれど、真島さんが先日、ヒースによく似た外国人と楽しそうに歩いている希美さんを見かけたと言っていたから、こんな私の心配は大きなお世話なのかもしれない。  ヒースは今頃、まんまと自分の策略に引っかかった私達の顔を思い浮かべながらケラケラとあの意地悪そうな顔で笑っているのだろうか。  🇬🇧  あの日以来、彼のいた場所にはぽっかりと仄暗い穴が佇んでいた。そこに流れる時間だけがピタリと止まり、私はそこから目をそらすように日常を送っている。  時に、ともすると、ヒースは本当にここにいたのだろうかと不安になってしまうことすらある。  そんな時、私はそっと首元に触れる。  そこにある、ひんやりとした感触が温かな気持ちをここに連れ戻してくれる。  彼は確かにそこにいた。  確かに、  そこにいて、  私の隣で笑っていた。
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