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社会人になって五年目。
もうすぐ梅雨に入ろうとしていた頃、私は大きな岐路に立たされていた。
今までなんとか目を逸らしながらもやってこれたのに。
うまくかわしながら生きてこれたのに。
遠い昔に見切りをつけたはずの英語が今まさに、私、秋吉 香里の前に立ちはだかっていた。
9月に実施されるTOEIC(国際コミュニケーション英語能力テスト)でスコア800以上取得のこと。
これが次のキャリアに進むために私に課せられた条件だった。
「これクリアできなかったら、秋からのプロジェクト参加の話はなしだから。それにそれくらいの英語力、これからやっていくには必要だからな 」
直属の上司、真島さんの言葉は冷たく私の胸に突き刺さった。
がちがちの日本企業とは言え最近は海外との取引も着々と増えてきていたから、いつかこんな日が来るって予想していなかったわけじゃない。でも、もう少し心の準備をする余裕はあると思っていたのだ。
そんな崖っぷちに立たされた私に真島さんが紹介してくれたのが、一年前にイギリスから技術職枠で派遣されてきていたヒース・アンドリュースだった。
もともとそんなに親しかったわけじゃない。
仕事ではあまり絡みはないし、お互いに顔と名前を知っているってくらいだった。
それに英語というものを親の仇くらいに思っていた私にとって、彼はできれば避けて通りたい存在だったのだ。
派遣されてくるくらいだから、たぶん優秀なんだとは思う。日本語も変な関西弁だけど、発音は関西人並みに流暢だ。性格はもしかして関西の血が入ってるんじゃないかってくらいきついのがたまに傷だけど。
背に腹は変えられない。意を決して、先入観を片手に恐る恐る頼みに行った私に、うっとりしてしまうような美しい笑顔でヒースは言い放った。
「僕、スパルタやで 」
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