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「パブは、パブリックのことやで 」とは、数分前のヒースの言葉だ。
イギリスではごくごく一般的で、仕事の後の一杯や友達との語らい、更には出会いの場でもあるらしい。
その言葉の通り、午後8時を過ぎた辺りから店内は混み始め、テーブル席のみならずカウンター席も数席が空いているくらいになっていた。
ここにいる人の国籍は、日本人1に対して外国人が3くらいだろうか。客層は場所柄、スーツ姿のビジネスマン、キャリアウーマン風の人が多く、そこに混ざってカジュアルな服装の学生みたいな人達がちらほらいる感じだ。英語が飛び交い、豪快な笑い声が舞っている。
そんな中で私の胸はドキドキと忙しない。いつ次の試練がくるのかとビクビクしていた。
そんな私を知ってか知らずか、隣に座るヒースはのんきなものだ。彼はすでに数回フレッドさんに黒ビールのお代わりを注文し、今飲んでいるグラスももうすぐ空になりそうだ。
「G'day, mate ! 」
やや低めの野太い声がヒースとの間に割って入ってきた。
ヒースとほぼ同時に振り向くと、そこには少し面長の、アメフトなんかをやっていそうな体格のいい男性が立っていた。そのあごひげがなかったらかなりのベビーフェイスなんだろうなって思ってしまうくらいつぶらな瞳をしている。
「Not bad. How's it going? 」
ヒースの知り合いなのだろうか。二人はやけに親しげに話し始めた。
話してるのは英語だよね?
いくつかの単語はキャッチできるから英語のはずだ。でも、所々の発音というかイントネーションが独特で、私はただでさえ付いていけない言葉の流れに完全に置いてけぼりを食らっていた。
「Your girl?」
話の矛先がこちらに向いたのか、二人が私の方に視線を向けた。何が降ってくるのか、思わず身構えてしまう。
「Nah, she is my student」
「香里、こっちは ダレン。お待ちかねのオージーや 」
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