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はじまり
椿は、春の月夜に、桜の木の下で黄昏ていた。
亡くなった母親の美影が好きだった、桜の花と椿の花。
母親が椿と名付けたのは、椿の花が好きだったからだ。そんな話を小さい頃に聞かされていたっけ、と椿は思い出していた。
妹の蕾を生んで、母親はすぐ亡くなってしまった。まだ甘え足りなかった椿は、寂しくて、悲しかった。
椿が座っている桜の木のふもとには、椿の花も咲いていた。
月光に照らし出される赤い、椿の花。
母親も、いつかはこんな椿の花を見ていたのだろうか?
椿の澄んだ瞳に、赤い花が映し出されていた。
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