はじまり

2/3
前へ
/3ページ
次へ
椿と蕾は、外で一緒に遊んでいた。鞠をつく遊びだ。 「お姉たん、鞠お上手だね」 「うふふ、そう?蕾もお上手よ」 椿の漆黒のおかっぱ髪が、風で揺れた。小豆色の着物の裾も揺れた。 蕾のお団子頭を、椿はそっと撫でる。 蕾はまだ5歳だ。椿は15歳なので、椿が10歳の時に生まれた。母親が亡くなったのも、椿が10歳の頃だ。 父親も、侍に誤って切られて、殺された。確か、椿が11歳の頃か。今は、椿と蕾、そしておばあちゃんと一緒に暮らしている。 「蕾は可愛いわね。お母さんそっくりよ」 「お母たんに?」 「うん」 椿は微笑んだ。 椿は母親の忘れ形見とも言える蕾を、大層大事にし、可愛がっていた。蕾も、そんな姉の椿を慕っていた。 「椿、蕾、お昼ご飯ができたよ」 少し掠れた声で、おばあちゃんが家の戸を開けて顔を出し、言った。 「はーい、じゃ、お昼食べましょう。蕾、お腹空いたわね」 「うん」 二人は家に戻っていった。 おばあちゃんは、優しくて椿は好きだった。おばあちゃんは美影の母親で、美影が死んだ時、 「こんなに可愛い自分の子供を残して死ぬなんて…美影は酷い親だよ」 そんなことを漏らしていた。 おばあちゃんは両親のいない二人を、大事に育てていた。幼くして両親を亡くした二人に、同情していたのだ。 明日は母親の五回忌だ。椿と蕾は母親のお墓参りに行く予定だ。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加