ドニとおじいさん

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ドニとおじいさん

「やったよ!半魚人を追っ払ったよ!みゆはすごいね!!あれ?腰が抜けたの?」 ガラちゃんはティアラの中から歓声を上げたが、肝心のみゆは、杖を握りしめたままヘナヘナと道の真ん中に座り込んでしまった。 「お、おお……。助かったのか、わしらは?」 「うん、おじいちゃん!あの女の子が半魚人をやっつけてくれたんだよ!」 地面に伏せていたおじいさんは、自分の前後をキョロキョロ見回していたが、男の子の説明にようやく安心したようだった。 両手をついて地面からゆっくり立ち上がると、男の子を連れて道に座っているみゆの所まで歩いてきた。 「命を助けていただき、本当にありがとうございます。これ、ドニや、お前もこのお方にお礼を申し上げなさい」 「はい、おじいちゃん。ぼくは孫のドニ・デュシュネといいます。それであの、あなたは、ひょっとして女王様ですか?」 「え?」 杖のあまりの威力にびっくりして、放心していたみゆは、ドニの問いかけにやっと気がついた。 「だって、金色の魔法の杖と、冠が何だかすごくしゃべっているし」 「こ、これ!ドニ!控えなさい!じ、女王様とはつゆ知らず、無礼の段、(ひら)(ひら)にお許しを!!」 ドニの話を聞いて、たちまち真っ青になったおじいさんは、孫を両手で無理やり座らせると、自分も地面に平伏してしまった。 「えっ、いえそんな、やめてください、頭を上げて!女王と言っても、ついさっきイソギンチャクに捕獲されて無理やりなったみたいな感じで……」 自分に向かって深々と頭を下げる2人に、みゆは慌てて立ち上がりながら叫んだ。 「お二人とも怪我をされていますね。ちょっと見せてください」 みゆは頭を下げられて恥ずかしがっていたが、よく見ると2人ともおでこや肩に怪我をしていた。 怪我をした2人にみゆは恐る恐る手を触れる。 するとみゆの手のひらから金色の光が溢れ、2人の傷はみるみるうちに治ってしまった。 「うわわ!もう、全然痛くないよ!おじいちゃん!」 「おお!さすが女王様のお力じゃ!傷だけでなく、長年の腰の痛みまですっかり治って体が軽い!!」 2人はお互いに抱き合い、大喜びした。 特におじいさんは、腰に両手を当てて軽快なステップを踏むと、足の上げ下げまでしている。 「ね、ねぇ、ガラちゃん!何で私こんなことができるの?これも杖の魔法?」 「ううん、これはみゆ自身の力だよ。前の女王様には治癒力はなかったもん。やっぱりみゆは、この世界に招かれた救世主なんだね」 「どういう意味?」 「この世界でお薬以外で他者を治癒できるのは、救世主だけって言われているの。だから、前の女王様はみんなから救世主って言われたくて、杖で無理やり治癒魔法を使おうとしてたけど、失敗してたよ」 喜ぶ2人を見守りながら、みゆがガラちゃんに尋ねると、意外な返事が返ってきた。 みゆはあまり納得いかなかったが、もう一つ気になったことを、今度はおじいさんたちに聞いてみることにした。 「お元気になられてよかったです。それであの、お尋ねしたいんですが、半魚人みたいな危険な生き物はこの辺りにたくさんいるんでしょうか?」 「はい、おそれながら申し上げます。帝国の荒廃により、かつての怪人が民を襲い、戦闘兵は略奪行為をしております。アスレイアの民の多くは老人と子供。生産性が極端に低下し、美しい水の都アグアカリエンテは今は見る影もありません。わしと孫も畑仕事に行く途中でいきなり半魚人に襲われました」 おじいさんは意を決してみゆに状況を説明してくれた。 「アグアカリエンテは、アスレイア王国の王都の名前よ。つまりお城があるこの街のことね。女王様が死んだ5年前の戦争のせいで、治安がすっかり悪くなったの」 おじいさんの話を聞きながらガラちゃんは、みゆに説明した。 「助けていただいたこのご恩は一生忘れません。また、改めてごあいさつに伺います」 「はい、いつでもお城に遊びにきてください。お気をつけて」 みゆより年下に見えるドニと手をつないでおじいさんは元来た道を帰って行った。 時々ドニが振り向いて、みゆに手を振っていた。 「治安の回復かあ……。何とかしないといけないね」 「お仕事やる気になったの?」 「うん!救世女王とか、なんだかややこしいのはイヤだけど、せめてあのおじいさんとドニが安心して畑に行けるようにしないとね!」 「うん!及ばずながらガラちゃんも協力するよ!」 みゆとガラちゃんは決意も新たに、アデラールの家へと向かった。
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