アデラールの覚醒

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アデラールの覚醒

5階建てラボの地下2階にある小部屋。 この建物では唯一、焼失を免れた空間だった。 所狭しと置かれたフラスコやシャーレ。そして、何に使うのかよくわからない実験機器の数々。 それらに埋もれるようにして、その大きなカプセルは部屋の中央に安置されていた。 埃が積もり、静まり返る室内に突然、ピピッと小鳥のさえずりのような音が響いた。 「ラボに侵入者あり。女性1名。ティアラと杖を所持。データベースと照合の結果、ガラティアラと巨人の杖と一致。よって、侵入者を女王と推定。旦那様、起床準備作業へ移行します」 姿の見えない声の主は、はっきりした大人の男性の声で、テキパキと状況説明をする。 すると静かだった室内が活気を取り戻し始めた。 カチカチと何かの機械が作動する音。 モーターが徐々に回転数を上げ、部屋中の電子機器が息を吹き返す。 部屋の隅で眠っていたタコ型お掃除ロボットたちが目を覚まして、4台で一生懸命に5年分の埃をきれいにし始めた。 空気清浄機も勢いよく作動し、部屋中に充満していた埃とカビ臭さは消え、たちまち清浄な空気に満たされていく。 シューシューと白い水蒸気がカプセルのふたのすき間から噴出し、ゆっくりと卵型のカプセルのふたが上に開き始めた。 「おはようございます、アデラール様。今日はアスレイア暦1977年8月10日午前11時40分。天気は快晴。外の気温は23度。室内は16度です」 「ラボの中の温度はもっと下げてもいいよ」 カプセルの縁に右手をかけ、ゆっくりと起き上がった男の子は低い声でつぶやいた。 「目覚まし時計をかけておいてよかった。あの火事から5年も眠っていたなんて……。兵士に焼き討ちにあった時、すぐに地下のカプセルに避難して正確だった。ここなら見つからないと思っていたんだ」 「お召し替えをどうぞ。今はこちらの服しかございません。他のご衣装は焼失いたしました」 男性の声が説明していると、さっきのタコ型ロボットの1台が、頭に畳んだ白衣を乗せてアデラールのそばに運んできた。 「やあ、きれいに畳んでくれたね。ありがとう」 アデラールは白衣を受け取ると、タコの頭を優しく撫でた。 するとタコはうれしそうに身をよじると、トコトコと8本の足を動かして部屋の隅に戻っていく。 「お前もこのラボを5年間、よく守ってくれた。礼を言うよ」 「とんでもございません、旦那様。人工知能として、当然のことをいたしたまでです」 「わあっ、これは大人サイズだね?ぼくにはかなり大きいや」 「申しわけございません。旦那様の身長の計算を誤りました」 「いいよいいよ。気にしないで。5年間眠っていたから、ぼくは成長できなかったんだ。他の子みたいに……」 アデラールは寂しそうに自分の手のひらを見つめた。 「あの子との約束も、破っちゃった。きっと今のぼくの姿じゃ、あの女の子もわからないよね」 「どなたのことですか?検索いたしましょうか?」 「いや、構わない。5年も経っているんだ。もう忘れているか、ぼくに腹を立てているかのどちらかだからさ。それよりも……」 そこまで話すと、アデラールの緑色の瞳がギラリと光った。 「女王を手厚く歓迎しようじゃないか?あの日の恨みを晴らしてやる」 白衣に着替えたアデラールは、思いつめた表情でカプセルから床に降り立った。
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